新型コロナウイルス感染症が収束せず、生活様式を変えて感染症と共存していくウィズコロナ、感染症の収束後のアフターコロナの時代に、大学と大学生協には何ができ、どうやって学生の学びを守っていけばよいのか。そんな問題意識を受けて、コンピュータ利用教育学会(CIEC)と全国大学生活協同組合連合会が主催した「2020 PCカンファレンス」で、2020年8月20日に「アフターコロナ・ウィズコロナの時代に大学生協は何ができるのか」と題したオンラインセミナーが開催された。

 学生がキャンパスに集って議論を戦わせたり、コミュニケーションを取り合ったりしていた日常は、新型コロナウイルスの感染症拡大を受けて大きく変化した。今回のセミナーが行われた背景には、非対面で「密」を避けるという新しい生活様式の下では、大学や大学生協も従来の運営を続けるのは難しいという危機感がある。一方で、この変化を捉えることができれば新しいチャンスになるというのが本セミナーで提示された問題認識だ。法政大学生活協同組合の松葉哲史氏が司会を務め、各分野の有識者がパネリストを務めて議論した。

熊本大学 教授システム学研究センターの北村士朗准教授は、コロナ以前に戻るのではなく、コロナ禍によって学びのための前提が大きく変わったことを受けて、大学や生協自体が変わっていく必要があると話した
出所:セミナー「アフターコロナ・ウィズコロナの時代に大学生協は何ができるのか」で、北村准教授が提示した資料

 セミナーでは冒頭、桜美林学園消費生活協同組合の石原裕専務理事が、大学生協の各事業分野における新型コロナウイルスによる影響について語った。それによると、食堂や旅行などを中心に、大学生協の事業に大きな影響が出ているという。一方で、電子書籍のように前年よりも伸びている事業も存在する。また、遠隔授業などを背景に今後、パソコン販売が伸長するとの見方を示した。

 日経BPは2020年7月にムック「アフターコロナ 見えてきた7つのメガトレンド」を発行した。編集に携わった日経クロステックの島津翔副編集長は、14世紀のルネサンスがペストという疫病により、欧州の生活様式や価値観が変わったことをきっかけに始まったことを受けて、新型コロナウイルスの世界的な流行によって社会が変容していくのは避けられず、アフターコロナの時代に向けて大きく7つのトレンドが見えてくると話した。

 島津副編集長は、企業にとっての「オフィス」と大学にとっての「キャンパス」が似た関係にあることを示し、オフィスとキャンパスの価値が何なのかを議論した。一つは「偶然の出会い」や「予想外の発見」を意味する「セレンディピティ」で、キャンパスに集まった学生同士や教員がコミュニケーションをとる中で偶発的に生まれるアイデアなどは大学にとって大きな価値を持つという。社会の信頼関係、規範、ネットワークといった社会組織の重要性を表す「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」は、オンラインでの活動だけで築くのは難しく、物理的な空間としてのキャンパスが必要と語った。

 日経BPの中野淳コンシューマーメディア局長補佐は、新型コロナウイルスの感染拡大により急速に導入が進んだオンラインの遠隔授業が抱える数々の課題について話した。学生にとっては、パソコンや通信環境の整備だけでなく、パソコンやクラウドサービスなどの使い方や活用方法を身に付けたり、学生同士の横のつながりを作ったりする場がなくなっていることも大きな課題だと指摘。大学生協の活動でこうした課題をカバーできるのではないかと提起した。

 学生の代表として登壇した全国大学生活協同組合連合会の矢間裕大学生委員長は、感染拡大が続く中で学生を対象に実施したアンケート調査を報告した。コロナ禍で学生は、学費や生活費の不安、安定した暮らしを継続できない「暮らしの危機」、遠隔授業の困難、実習ができず、進路の見通しが立たないなどの「学びの危機」、友達が作れない孤独、学び合いができないなどの「コミュニティの危機」という「3つの危機」を抱えているという。

 学びの環境として、端末やネットワーク環境などハード面の整備が進みつつある一方で、オンライン学習ならではの学び方について疲弊を感じている。課題はコミュニティの機能をオンラインだけでは構築できないことで、大学生協が教職員と学生をつなぐ役割を果たせるのではないかと語った。

 千葉大学生活協同組合の内赤尊記専務理事は、大学生協として何が支援できるかについて話した。学びの支援についてはオンラインで代替できるものが多く、時間や場所に拘束されないメリットがある一方で、1人でモチベーションを保つのが難しいことに対してWeb交流会など学生同士のコミュニケーションを促していくと話した。また、就活のための面接講習や進路相談をZoomなどのオンライン会議サービスを利用して実施することで、学生が参加しやすくなる一方、グループ面接や集団討論、OB/OGとの交流はオフラインの方が好ましく、オンラインなりの良いところを学生が取捨選択していけばよいと提案した。

 熊本大学 教授システム学研究センターの北村士朗准教授はコロナ禍をきっかけに今後の学びは大きく変わっていくと予測。学習者それぞれに合わせた内容を、求める場所やタイミングで提供する「個別化」と、対面でのコミュニケーションへの欲求が強くなり、オンライン学習との差異が求められることによる「対面時の密度」の高まりが加速するとした。

 こうした提言を受けて、全国大学生活協同組合連合会の毎田伸一専務理事は、大学そのものはどのように変わっていくのか、大学生協事業をどのように捉え直すのか、大学生協が組織として持ちうるのか、といった論点からアフターコロナに向けて大学生協の役割について触れた。その上で、新型コロナ以前に戻るのではなく、新しい生活様式に合わせて変えていくことが重要だと話した。