ポーラ美術館(神奈川県・箱根町)は2021年8月8日、小学生を対象にしたオンラインによる対話型の美術鑑賞イベント「オンラインでキッズ☆おしゃべり鑑賞会」を開催した。

ポーラ美術館が小学生を対象に実施したオンラインの美術作品鑑賞イベント。絵画や彫刻などの作品について参加者が自分の考えを話しながら、じっくり鑑賞する

 これまで同館では、子供たちが学芸員と一緒に展示室を回りながら作品と触れ合う対話型の鑑賞イベントを学校の夏期休業期間中に開催してきた。その時に開催している展覧会を6、7人の子供たちと学芸員が一緒に回り、作品の前でじっくり鑑賞することで、作品についての理解を深めたり、感受性を高めたりすることにつながる。

 対話型の美術鑑賞とは、講師が作品についての知識を授けるのではなく、参加者と対話をしながら鑑賞して自由な発想を引き出すというもの。1980年代に米ニューヨーク近代美術館(MoMA)が教育プログラムとして開発した鑑賞法で、参加者全員が一つの作品をじっくりと鑑賞し、決められたテーマで自由に語り合う。

 2020年は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発出で臨時休館を余儀なくされたため、ポーラ美術館でも対話型鑑賞会を含めて各種イベントが軒並み中止になった。コロナ禍が収束せず、対面での対話型鑑賞が依然として難しいことから、2021年は初めてオンラインでの開催を検討した。遠隔授業などで、子供たちがオンラインのイベントなどに慣れてきていると感じたこともイベント開催を後押ししたという。

 ただ、「オンラインでの鑑賞と対面での鑑賞は似て非なるもので、イベントの開催にも全く異なるノウハウや知見が必要」とポーラ美術館学芸部の山塙菜未氏は話す。そのため対面やオンラインでの対話型鑑賞のファシリテーター育成やプログラムの企画運営をしているNPO法人芸術資源開発機構(ARDA:アルダ)に協力を求めた。

「これまで対面での対話型鑑賞は実施してきたが、オンラインでは初めて。鑑賞方法や開催のノウハウも異なるため、ARDAに協力を求めた」と、ポーラ美術館学芸部の山塙菜未氏

 ポーラ美術館とARDAが数カ月かけて企画を立て、鑑賞会はビデオ会議システム「Zoom」を使って行うことにした。オンライン・イベント管理サービス「Peatix」を通じて集客し、31組の親子が参加した。

 当日は小学校1・2年生用と3・4年生用、5・6年生用の3つのプログラムを同じ日に時間帯をずらして開催、子供たちはZoomで学芸員と一緒に作品を鑑賞した。1・2年と3・4年は60分、5・6年は80分のプログラムで、それぞれ作品も異なり、鑑賞を通じて子供たちから引き出す内容も異なってくる。

 ARDAのスタッフで、当日1・2年生と3・4年生のファシリテーターを担当した近藤乃梨子氏は「1・2年生はまだ言葉でうまく伝えられないもどかしさがあるので、作品と関連性のあるモノを家の中から探してきてもらう借り物競走をやったりして緊張をほぐした。3・4年生は抽象画を鑑賞していても、どんどん自分の意見をほかの参加者に説明してコミュニケーションを取っていた」と、当日の様子を紹介する。

「子供の発達段階に応じて、作品の見方も異なる。子供それぞれが意見を伝えられるように気を配った」と、鑑賞会のファシリテーターを務めたARDAの近藤氏は話す

 保護者向けにはLINEグループを作って、子供と同じ作品を見ながら参加者同士がコミュニケーションを取れるようにした。「親子でオンラインでの鑑賞会を体験することで後日、美術館を訪れて同じ作品を間近で鑑賞してもらうことにつなげる狙いもある」とARDA代表理事の三ツ木紀英氏は話す。イベント後のアンケート調査では「実際にポーラ美術館に行ってみたくなった」という回答がいくつもあった。

「オンラインでの鑑賞会をきっかけに、後日美術館を訪れてくれるようになることも目的としている」と話すARDA代表理事の三ツ木紀英氏

 オンライン開催にしたメリットはほかにもある。コロナ前の対面の鑑賞会では、子供の参加は多くても10人程度にとどまっていた。同館が箱根町にあることもあって、参加するのは旅行で近くに宿泊している家族か近隣の住民に二分されていたという。また、対面での開催は3年生以上を対象にしていたが、オンラインでは保護者のサポートを得ることを前提に1、2年生も対象にできた。また、オンライン開催だったことで、遠方からでも参加できた。

 ARDA代表理事の三ツ木氏は「美術館の場所を訪れて鑑賞するという特別感のある体験と、オンラインで画面の中の作品を鑑賞するのは根本的に異なる体験だと思う。一方で、オンラインの鑑賞は、ゲーム感覚で鑑賞することもでき、実際に美術館に行く動機付けになる」と言う。ポーラ美術館も「オンラインでの対話型鑑賞会は、対面型の代替ではなく、美術作品の新しい鑑賞方法になる可能性がある」(山塙氏)と考えている。

 今回のオンライン・イベントは、文化庁の「ARTS for the future!」事業(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)による助成金を活用して実施した。今後については未定だが、ポーラ美術館ではコロナ禍が収束したとしても継続して実施できればという。

 ポーラ美術館は「箱根の自然と美術の共生」をコンセプトに、神奈川県箱根町に2002年に開館した。印象派から20世紀にかけての西洋絵画を中心としたコレクションの展覧会を開催したり、現代美術の作家の作品も展示したりしている。