2020年11月、東京都町田市の市立小学校に通う女子児童がいじめを訴える遺書を残して自殺した。2021年9月13日に児童の保護者が記者会見を開き、学校で使っている端末(Chromebook)のチャット機能で悪口を言われるなどのいじめ被害があったと訴えた(図1)。これを受けて文部科学省は、町田市教育委員会に対して指導・助言をするとともに、全国の教育委員会等にいじめの積極的な認知と対応を求める通知を出した。

2020年9月に、いじめにつながる恐れがある行為があると学校が認知していたにもかかわらず、児童が亡くなるまで保護者にも教育委員会にも報告されていなかったことが問題視されている。遺族は町田市に対して強い不信感を抱いており、市のいじめ問題対策委員会ではなく、新たな設置要綱に基づく第三者委員会の立ち上げと調査を要望している
2020年9月に、いじめにつながる恐れがある行為があると学校が認知していたにもかかわらず、児童が亡くなるまで保護者にも教育委員会にも報告されていなかったことが問題視されている。遺族は町田市に対して強い不信感を抱いており、市のいじめ問題対策委員会ではなく、新たな設置要綱に基づく第三者委員会の立ち上げと調査を要望している
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 この問題を東京新聞は「いじめ温床のタブレット端末」という見出しで報じ、ネット上では「GIGAスクール構想で配ったChromebookがいじめに使われた」といった非難の声も上がった。だが、問題はそれほど単純ではない。

 この事案は、教育問題としてのいじめ問題そのものを除けば、(1)学校と教育委員会の被害児童やその保護者への対応が適切でなかった可能性があること(2)児童用端末の運用方法が不適切だったことの2つに分けて考える必要がある。(1)については本記事で追及すべきことではないので、(2)について検証する。

 町田市教育委員会 学校教育部 教育センター 所長の林 啓氏によると、児童用として発行したGoogleアカウントのIDは「学校番号+入学年度+通し番号3桁」の組み合わせだった。通番の詳細は不明だが、同級生なら学校番号と入学年度は同じなので、他人のIDは容易に想像がつく。初期パスワードは変更するように通知したという。

大臣も驚いた「全員が同じパスワード」

 問題の一つは、本事案の小学校において児童のパスワードを統一していたこと。容易に推測できるIDと全員が同じパスワードの組み合わせで運用すれば、他人を装いログインして不正利用するのは簡単だ。町田市教育委員会は「情報セキュリティとなりすまし防止等の観点から課題であったと言わざるを得ない」と問題を認めている。

 もう一つの問題は、子供同士のチャットなどが野放しだった可能性が高いこと。端末の利用法はもちろん、子供たちの間だけでやり取りするチャットなどについてもルールを決めた上で、学校や教員がある程度目が届くような使い方をしなければ、当然トラブルが起こる恐れがある。林氏は「GIGAスクール以前からそうした指摘はあった。現在、Googleのチャット機能は児童・生徒たちだけでは使えないようにしてある」と説明する。こうした運用に加え、情報モラル教育も欠かせない。

 この事案においてGIGAスクール端末がいじめに関係したことは確かなようだが、悪いのは基本的なセキュリティポリシーさえ守らず、ずさんな運用をした学校の管理者であり、端末そのものでも、GIGAスクール構想でもない。どんな便利な道具でも、使い方を誤れば人を傷つけることは、学校の内でも外でも同じだ。

 町田市は2017年度からICT環境整備を本格的に推進し、LTE通信機能を持つChromebookを小中学校に配備するなど、先進的な取り組みで知られる。自殺した児童が通う小学校は市内で3校指定されたモデル校の一つで、ICTを活用した教育が実践されていた。にもかかわらず、なぜこれほどお粗末な端末運用をしていたのか疑問が残る。そのあたりは、いじめに対する学校側の対応が適切だったのかどうかを含め、いじめ問題対策委員会による調査結果を待たねばならない。

 萩生田光一文部科学大臣は9月17日の会見において、「GIGAスクール構想に伴いチェックリストを配布したり指導したりしてきたが、もしかすると先進的な取り組みをする市において、自分たちは早くから取り組んでいるという慣れによって、こうした穴が開いているとすると大変なことになる」と危機感をあらわにした(図2)。

会見で町田市のいじめ自殺について答える萩生田大臣。児童たちが同一のパスワードを使っていたと聞き驚いたと話した
会見で町田市のいじめ自殺について答える萩生田大臣。児童たちが同一のパスワードを使っていたと聞き驚いたと話した
(出所:文部科学省)
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 「学校のコンピューターはいじめの温床」というレッテルが貼られてしまうと、GIGAスクール構想自体がとん挫しかねない。各自治体・学校においては、たとえICT活用先進校であってもGIGAスクール端末が適切に運用されているか、改めて確認すべきだ。かといって、「コンピューターは危ないから児童・生徒には使わせない」となっては、子供たちが自由に使って自ら学ぶことを阻害する。難しいバランスを探る作業がしばらく続きそうだ。

■変更履歴
追加情報:町田市が各学校に配布したIDの初期パスワードは「12345678」だった。亡くなった女子児童が通っていた小学校では、これを変更せずに運用していたとみられる。 [2021/09/27]