文化庁著作権課と授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS、サートラス)は2020年10月7日、「授業目的公衆送信補償金制度」の趣旨説明や2021年度以降の運用について説明会を開催した。

 授業目的公衆送信補償金制度は、学校や大学など教育機関が補償金を払うことで個別に著作者の許諾を得なくても、著作物を利用した教材や資料を電子メールで送信したり、LMS(学習管理システム)などで共有したり、著作物を利用した授業映像を録画して配信したりすることを可能にする制度。

 2018年5月に公布された改正著作権法第35条で定められていて、教育機関の設置者となる教育委員会や学校法人などが、指定管理団体のSARTRASに一定額の「補償金」を支払い、作家や作曲家など著作権者に分配する。

 2020年春からの新型コロナウイルス感染症拡大で、大学や学校など多くの教育機関が休校して遠隔授業などで著作物の公衆送信の需要が増えたことを受けて、2020年度に限っては補償金を特例で無償として4月28日に早期施行した。

 文化庁著作権課の岸本織江課長は「ICT活用の円滑利用と著作者の権利保護を目的とし、文部科学省が推進しているGIGAスクール構想の基盤となる重要な制度。これまで授業で遠隔授業などにおいて著作物を公衆送信するに当たっては、逐一著作権者の許諾を得る必要があったが、この制度の導入で著作権処理の手間をかけずに著作物を円滑に利用できるようになり、教員が教材作成や授業に集中できる」と、この制度の趣旨と効用を説明した。

 SARTRASは9月30日に、これまで決まっていなかった補償金額などに関して文化庁長官に認可申請を求めた。文化庁は年内をめどに文化審議会に諮問して、補償金額が適正かどうかを判断する。

SARTRASが認可申請した授業目的公衆送信の補償金額

 補償金額が認可されれば、2021年4月1日から有償での制度の運用が始まる。著作物等の種類や授業目的公衆送信の回数にかかわらず、1人当たりの補償金額を別表のとおり定め、自治体や学校法人などの学校設置者は在学人数を乗じた金額を1年ごとにSARTRASに支払う。

 年度ごとの補償金とは別に個別の都度補償金の支払いも認め、事前にSARTRASに届け出て承認を得て、著作物ごとに10円を履修者数に乗じて合算した補償金額を支払うことで著作物の公衆送信をできるようにする。

 SARTRASが教育機関関係者に対して2019年6 月から8月にかけて実施した「授業過程における著作物の インターネット送信等に係る実態及び意向調査」(有効回答数1429件、回答依頼総数の31.3%)によれば、実際に許諾を得て授業目的で公衆送信した件数は47件と極めて少なかった。調査時点では現在のような新型コロナウイルス感染症の影響がなく、同時双方向の対面授業が中心だったことが、公衆送信による著作物の利用が少なかった理由とみられる。

 しかし今後は、(1)授業時にパソコンやスマホなどへの資料送信、(2)担当教員や履修者がアクセスできる共有フォルダーへのアップロード、(3)予習復習のための教材送信、といった授業目的の利用が見込まれる。特に遠隔地の他校や自宅など郊外にいる履修者に対する授業で、(1)病気療養履修者の教育、(2) 不登校履修者の教育、(3)学習速度の相違を解消するための補習での利用が高い比率で見込まれるとの回答があった。

 補償金額の算定に当たっては、海外の例として文化庁の委託事業「ICT活用教育に係る諸外国の補償金制度及びライセンシング環境等に関する調査研究報告書」(2018年3月)も参考にした。海外では教育利用目的でも補償金を支払うことが一般的だが、金額などについては国ごとに法制度や経済規模に違いがあり比較が困難だったという。

 例えばフランスは、同様の補償金制度があり、ライセンスも併せた合意の下、著作物が利用されている。1人当たりの額は、初等教育(日本の幼稚園から小学校4年生)で約152円(1.21ユーロ) 、中等教育(日本の小学5年生から高校2年生)で複製量によって約227円(1.80 ユーロ)または約441円(3.50ユーロ)、高等教育(日本の高校3年生から)は複製量によって約330円(2.62ユーロ)または約653円(5.18ユーロ)で、日本の補償金額案より若干低い。

 米国に補償金制度はなく、教育機関の利用についても、フェアユースに該当しない場合は許諾が必要だ(注)。都度、許諾権を購入する従量制ライセンスを利用する教育機関が多く、 書籍・新聞・雑誌・専門誌・オンライン著作物などの年間包括ライセンスで、例えば大学では1人当たり約220円(2米ドル)から 約1320円(12米ドル)程度という。

 規定の内容や補償金額に関しては、実施から3年後以降に必要に応じて規定内容の検討なども行えることを附則に盛り込んだ。

※注 「授業目的公衆送信補償金の額の認可申請理由書」では、「フェアユースの4要件を満たさない範囲で許諾が必要」としている