2020年10月23 日と24日の2日間、教職員や教育関係者に向けて「第25回 New Education Expo」(以下NEE)が開催された。

 1996年の初開催以来、東京・大阪での展示会とセミナー、全国のサテライト会場への配信などを行う代表的な教育イベントだった。2020年は25周年の節目だったが、新型コロナウイルス感染症の影響で、2019年までは6月に開催してきた展示会は行わずオンラインセミナーだけの開催となった。

 10月23日の基調講演は、文部科学省文部科学審議官の丸山洋司氏による「子供たちの『学びの保障』をどう担保するか〜今後の教育施策〜」。小学校で全面実施が始まった新学習指導要領や、新型コロナウイルス感染症対策、GIGAスクール構想による1人1台のコンピューターと高速の校内ネットワークの整備などICTの活用など、教育現場は急速に変化している。こうした状況を受けて、今後の学校教育はどう変化していくのか説明した。

 2020年の新型コロナウイルス感染症による全国的な休校措置で、学校現場では最大45日の授業日数が失われたという。各学校で夏休みの短縮や土曜授業などの対策により、学びの保障を実現するために努力してきた。新型コロナウイルスの学校での感染も低く抑えられていて、おおむね大半の学校で1学期の遅れを取り戻し、2学期に入ったという。

文部科学省では6月に「学びの保障」総合対策パッケージを公表。新型コロナウイルスの感染症対策を続けながら、教育の保障をする
出所:NEE 文部科学省丸山洋司文部科学審議官「子供たちの『学びの保障』をどう担保するか〜今後の教育施策〜」の講演より

ハイブリッド型教育の構築を目指す

 文部科学省は、感染防止の「学びの保障」総合対策パッケージを2020年6月5日に公表。それによると、授業を協働学習などの学校でしかできない学習活動に重点化し、限られた授業時数の中で効果的に指導していき、最終学年以外は指導の一部を次年度以降に移す特例対応をとる。2020年度第2次補正予算で人的・物的体制の緊急整備を行い、加配教員(3100人)、学習指導員(6万1200人)、スクール・サポート・スタッフ(2万600人)を追加配備する。また、ICT活用によるオンライン学習を確立するため、家庭にICT環境がない子供向けに端末やモバイルルーターなどを優先的に配備して感染症に備え、優先すべき地域の学校でオンライン学習が可能なようにしていく。

 2020年6月23日時点の文部科学省による調査では、休校期間中の家庭学習に関して100%の自治体が公立学校で教科書や紙の教材を使用して学習を実施したが、デジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習を実施したのは40%、 同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習を実施したのは15%と、学校でのICT活用の割合はまだ低く、課題が多いことも明らかになった。

 だが、2020年度からGIGAスクール構想により小中学校で1人1台端末の整備が進み、今後の学校教育でICTの利活用が進むのは間違いない。丸山審議官は「対面授業とデジタル教科書などICTを活用したハイブリッド型の学校教育の構築を目指し、ICTの効果的な利用により個別最適な学びと協働的な学びを実現する」と話した。

GIGAスクール構想を実現していくためには、端末やネットワーク環境などの「ハード」と、デジタル教科書・教材や教育データなどの「ソフト」、教育現場でICTを活用できる体制の「人材」の3つが組み合わさることが重要
出所:文部科学省丸山洋司文部科学審議官「子供たちの『学びの保障』をどう担保するか〜今後の教育施策〜」NEE講演資料

 GIGAスクール構想では、当初4年間で整備する予定を新型コロナ対策として2020年度内に前倒し整備することになった。4610億円の予算(2019年度補正と2020年度第1次補正予算の合計)のうち端末整備に関しては、自治体において既に98%の予算が執行された。2020年度中にほぼ端末整備は完了し、公立小中学校では児童・生徒1人1台の端末環境が実現する見通しという。

 ソフトウエアに関しては、デジタルならではの学びの充実を進める。既に2020年度から新学習指導要領が小学校で全面実施(中学校は2021年度、高等学校は2022年度から)されていることを受け、デジタル教科書・教材などデジタルコンテンツの導入を進める。各教科ごとのICTを効果的に活用した学習活動や先端技術の利活用方法を提示していくとともに、学習指導要領をコード化し、オンライン学習・テストシステムのプロトタイプ開発をするなど、教育データの利活用を進めていく。

 教育を支える人材の育成については、日常的にICTを活用できる体制を構築していく。各地域での指導者養成研修を実施し、ICT活用教育アドバイザーによる相談体制の充実、GIGAスクールサポーターによるICT環境の導入支援、ICT支援員による日常的な教員のICT活用支援を行う。

デジタル教科書の導入実証を開始

 学習者用デジタル教科書については、小学校では2020年度に紙の教科書305点のうち287点(94%)、中学校では145点中138点(95%)のデジタル教科書が発行されている。ところが、市町村が設置した公立小学校で1校でもデジタル教科書の導入したのは2019年度で107市町村(6.1%)、2020年度に導入を検討したのは257市町村(14.7%)にすぎなかった。

 現状では紙の教科書は国の予算措置により無償給与されているが、学習者用デジタル教科書は対象外。購入費用は自治体の教育委員会等が負担し、使用するかどうかは学校の判断になる。

 また、デジタル教科書は、紙の教科書の発行者が紙の教科書の内容を全て収録して制作し、紙の教科書に代えてデジタル教科書を使う場合は、授業時数の2分の1に満たないようにするという使用要件がある。菅内閣の規制改革会議でも、教育のデジタル化を進めるために、この基準を見直すべきではないかという議論が出ており、文部科学省は年内をめどに一定の方向性を示すとした。

2021年から3年にわたって学習者用デジタル教科書普及促進活動を実施する。実証校でデジタル教科書を導入し、効果・影響を検証する
出所:文部科学省丸山洋司文部科学審議官「子供たちの『学びの保障』をどう担保するか〜今後の教育施策〜」のNEE講演資料

 デジタル教科書については、2021年以降3年間にわたって実証研究校でデジタル教科書の使用による効果・影響を検証する。そのための経費として、2021年度に「学習者用デジタル教科書普及促進事業」の予算として52億円を概算要求する。1人1台端末の環境等が整っている小・中学校を対象に、デジタル教科書を提供して普及促進を図る。小学校5、6年生の1教科と中学校全学年の2教科分が導入できる予算規模だという。

 デジタル教科書の導入と並んで、学校教育の中で教育データの標準化も重要だと丸山審議官は話した。教育データは現時点で、先進的な自治体・学校が調査・研究をしている段階で、収集や活用方法はさまざま。教育現場でのデータ収集・利活用にコンセンサスがある状況にはないという。 一方で、GIGAスクール構想により小中学校に1人1台端末の導入が加速することで、データ収集・活用に関して一定のルールづくりが喫緊の課題だ。

 文部科学省では、教育データ標準の枠組みの提示と学習データの起点として学習指導要領のコード化を進め、「教育データ標準」(第1版)として10月16日に公表した。今後、これまで制度に基づいて学校現場で活用されてきた統計用データや学校健診情報などの標準化についても、2021年春をめどに「第2版」 として公表できるよう検討を進める。教育データについては、活用結果を見ながら必要に応じて改訂を行う予定だ。

 丸山審議官は「教育のデジタル化の流れは加速している。新型コロナウイルス感染症が終息したとしても、この流れが後戻りすることはない」と話し、学校教育のICT利活用を進めていく方針を説明した。