高大接続改革の切り札として、にわかに注目を浴びるようになったeポートフォリオ。国の主導で開発された「JAPAN e-Portfolio(JeP)」の運営が始まり、2020年度からは大学入学者選抜にも使われる。にもかかわらず、教員の多くはJePを正確に理解していない。eポートフォリオの本質とJePの課題を明らかにする。
2020年度の大学入学者選抜(入試)から、「JAPAN e-Portfolio」(ジャパン・イー・ポートフォリオ:JeP)の利用が始まる。高校生が3年間の学習・活動の過程や成果をJePのポータルサイトに入力・蓄積しておき、大学の入学者選抜時に提出する仕組みだ。入試改革と高大接続の一環とされ、全国の高等学校に対してeポートフォリオの蓄積が呼びかけられている。
ところが、教育関係者の間では、JePに対する疑心暗鬼が渦巻いている。「生徒の個人情報が受験産業に渡ってしまう」「特定企業の金もうけに利用されるのではないか」とか、「入試で高く評価される資格を生徒に取らせた方がいいのだろうか」といった疑念や批判を口にする教員が少なからずいる。
だが、それらのほとんどは、情報の開示と周知の不足に加えて、一部で誤解を招くような手法を採ったことによる誤った認識だ。そもそも、JePが高校・大学の教育関係者に正しく理解されていない最大の原因は、高校におけるポートフォリオ活用が十分に広がる前に入試に使われるという逆転が起こったことにある。どういうことか、順に説明していこう。
高校3年間の活動記録を評価
国は、大学入学者選抜において「学力の3要素」を総合的に評価することを求めている。知識・技能がペーパーテストでも容易に測れるのに対し、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性等)」を評価するのは、従来の入試では困難だ。このため、文部科学省は「大学入学者選抜改革推進委託事業」において、主体性等を大学入試でどう評価できるのかを研究する事業を外部に委託した。その「主体性等分野」で、関西学院大学を代表大学とした9大学で構成するコンソーシアムが事業を受託した。
この委託事業で研究・開発されたのがJAPAN e-Portfolioの仕様だ。その仕組みは図1の通りだ。高校生は普段の学習や部活、学外活動を振り返りながら、その過程や成果をJePのポータルサイトに入力していく(図2、図3)。基本的に生徒が入力するが、情報の信頼性を担保するために教員が承認する場合もある。JePにポートフォリオをためるには、生徒が直接入力するほかに、連携する企業の授業支援ソフトなどからデータを流し込む方法もある。
こうしてJePに蓄積したポートフォリオデータは、入試時に大学の募集要項に従って提出し、評価される。高校生が何をどのように学び、どんな活動をしてどれだけの成果を残したのかという記録を見ることで、その生徒が主体的に学びに向かう姿勢があるか、大学で何を学び、どんな人間になりたいのかといった「主体性等」を評価できるという理屈だ。
JePは唯一のシステムではない
ここまでは、情報収集に熱心な教員なら聞いたことがあるかもしれない。しかし、JAPAN e-Portfolioはあくまでも「仕様」であって、eポートフォリオ出願システムとしてのJePのポータルサイトは唯一無二の存在ではないということは、ほとんど知られていない。つまり、前述したようなポートフォリオの項目や仕組みといった仕様が委託事業の成果物であり、現在運営されているJAPAN e-Portfolioのポータルサイトは、その仕様に則った事業体の一つという位置付けだ。仕様は公開されており、文部科学省の運営許可要件を満たす団体があれば、複数のサイトが並び立つことも可能性としてはあり得る。
JePのポータルサイトは、2017年10月から運営が始まり、高校に対して生徒のポートフォリオを入力していくよう呼びかけられた。サイトなどシステムの開発と運用はベネッセコーポレーションが受託している。
JePの開発をもって文部科学省の委託事業は終わり、同時にJePの運営を希望する非営利組織からの申請を受け付けた。そこに唯一応募した一般社団法人教育情報管理機構が運営許可要件を満たしているとして事業を引き継いだ。事業の主体は変わったが、事務局は関西学院大学が中心となり、システム運用はベネッセコーポレーションが受託するという構図は変わっていない(図4)。