生徒の個人情報は守られるのか

 経緯の説明が長くなってしまったが、JePを正しく理解するには、これらの情報が不可欠だ。

 JePに対する疑念や懸念を口にする教育関係者は、主に2つの点を問題にしている。一つは個人情報の扱いとセキュリティに対する懸念。もう一つは、JePに参加する企業が個人情報を自社のビジネスに利用しているのではないかという疑念だ。

 JePのポートフォリオデータは、本人の同意を得ることなく第三者に提供することはないとされている。関西学院大学で委託事業を担当した学長室アドミッションオフィサー 学長特命の尾木義久氏は、「生徒のポートフォリオデータを見られる人は、本人のほかに高校の教員と提供を受けた大学だけ。運営を委託している企業や機構の賛助会員も含め、個人情報が企業などに渡されることは絶対にない」と断言する。

 ただし、JePの運営方針に書いてあるように、教育の研究のため、個人が分からない形での情報が分析される可能性はある(図5)。また、入学者選抜でJePからポートフォリオデータを取得した大学が情報をどのように使うかは、その大学次第だ。

●入力情報は教育研究には利用される
図5 文部科学省が示したJePの運営方針には、入力した情報の利用方法が明記されている。利用者が同意した範囲内での教育研究利用はあり得るが、商品開発などには使えない(出所:文部科学省「「JAPAN e-Portfolio」運営方針」)

 JePに蓄積される生徒のポートフォリオデータは個人情報だ。個人情報漏洩は今もしばしば発生しているし、ましてやJePのシステム運用を受託しているベネッセコーポレーションは、2014年に大規模な個人情報漏洩事件を起こしている。生徒・保護者や教員が心配するのは当然だ。

 むろん、個人情報管理については国も教育情報管理機構も細心の注意を払っている(図6)。文部科学省はJePの運営許可要件として、「プライバシーマークを取得し、又は情報セキュリティマネジメントシステム(ISO27001/ISMS)の適合性評価の認証を受けているなど、個人情報に関するセキュリティ管理体制が整備されていることが証明できること」を挙げている。文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 専門官 高大接続改革プロジェクトチームの加藤善一氏は、「機構の情報管理体制は今後も継続的にチェックする」と強調する。

●JAPAN e-Portfolioの主なセキュリティ対策
図6 JePではさまざまなセキュリティ対策を実施しているという

ベネッセの共通IDを使用

 生徒のポートフォリオデータをJAPAN e-Portfolioの賛助会員企業やシステム運用を受託しているベネッセコーポレーションがビジネスに使うのではないかという懸念については、前述のように利用はできない仕組みになっているので完全な誤解だ。だが、こうした疑念が湧くのも無理からぬ事情がある。

 JePのIDとパスワードの発行には、ベネッセコーポレーションが所有するID発行管理システムを利用している。これは学校で利用される同社のサービスにおいて、共通IDとして使用している。このため、ベネッセグループの授業支援システム「Classi」で共通IDを使用している高校では、このIDでそのままJePを利用できる。JePはベネッセコーポレーションのID管理システムをいわば借用しているだけで、このIDでJePにログインしたら同社にポートフォリオデータが渡るわけではない。

 本来ならJePが独自のID管理システムを開発するのがベストだ。しかし、高校側でのなりすまし防止などセキュリティを考慮した複雑なシステムを委託事業の中で新たに開発するには、予算も時間も足りない。そこで、ベネッセコーポレーションが所有するシステムを利用することにした。これが誤解のもとになった。

 予算と時間の制約がある中で事業化するにはやむを得ない面もあるが、教育産業に関わる企業のID管理システムを公共性のあるJePに使うのは、公平性の観点で問題がある。授業支援システムの導入を検討する際、高校側では「JePで同じID が使えるなら、Classiなどベネッセのサービスを導入した方が管理の手間が省ける」と判断するかもしれない。ベネッセホールディングスの広報部は「共通IDがJePでも利用できることを営業的に利用することは一切ございません」としているものの、有利に働く可能性は否定できない。

 今後は、教育関連企業に依存しないID管理システムを開発する必要があるだろう。将来的に、JePは電子調査書システムと一体的に運用することが検討されている(後述)。「電子調査書では新しいID管理システムを作ることになる」(関西学院大学の尾木氏)というので、恐らくそのタイミングでJePのID管理システムも変更されるとみられる。

JeP=eポートフォリオではない

 JAPAN e-Portfolioに関する疑念は、一部に問題はあるにせよ、ほとんどが誤解であることが分かった。一方で、JePが正しく理解されず、その結果、正しく利用されないという課題は残っている。課題は4つある。(1)「JeP=eポートフォリオ」と認識している教員が多いこと、(2)eポートフォリオ活用と入試利用の順番が逆になったこと、(3)利用大学がまだ少ないこと、(4)大学での評価、活用方法が定まっていないことだ。

 長年eポートフォリオの研究に取り組んでいる東京学芸大学 ICTセンター教授の森本康彦氏は、「JAPAN e-Portfolioはeポートフォリオそのものではなく、生徒の学びの集大成をアピールするための1つの場所。その意味ではショーケース・eポートフォリオ」と指摘する。ショーケースとは、ポートフォリオの中でも最も良くできた成果やアピールしたい活動を選び出したものだ(図7)。

●見せるポートフォリオ「ショーケース」は別
図7 学習・活動の過程でポートフォリオは自然にたまっていく。その中から精選した情報を「ショーケース」として評価してもらう(図は森本康彦氏の資料から転載)

 JePは生徒が自身の学びを振り返るための機能を備えているが、大学入学者選抜に使われるため、重心は活動の結果や表彰、資格・検定、大会出場などに寄っている。少なくとも、そういう印象を持たれている。本来、eポートフォリオは生徒の学びの気付きを促し、教員の授業改善に使うもの。JePは使い方を間違うと「単なるリア充のリストになってしまう」(森本氏)恐れがある。

 ポートフォリオを活用したことがない多くの高校教員は、初めて目にするJePがeポートフォリオそのものであり、ショーケースとして側面が本質だと思ってしまうのではないか。