順序が逆になった不幸

 高校の教員の間でJePが正しく理解されないのは、高校におけるeポートフォリオ活用が一般的になっていないことに原因の一端がある(図8)。東京学芸大学の森本氏によると、「高校の授業をICTも絡めながら主体的に学べるスタイルに変えていくことが大切で、そのためにeポートフォリオが活用できる。ポートフォリオがたまった結果、最後に生徒が自分で選んだものを評価してもらうツールとしてJAPAN e-Portfolioを使う」のが本来の道筋だ。

●eポートフォリオを使った主体性等評価の課題
図8 高校において、eポートフォリオが学習・授業改善の手法として普及する前に、大学の選抜方法として使われることが混乱のもとではないか。しかも、eポートフォリオで主体性等を評価する手法やシステムが十分に整っていないため、一般入試での利用は難しい

 ところが現実はその逆だ。大学の入試事情に詳しい河合塾 教育研究開発本部 教育研究開発部 教育研究開発Aチーム チーフの伊藤寛之氏は、「ポートフォリオは授業改善に使えるが、高校ではまだ活用されていない。ポートフォリオが普及していない中で、入試に使われるからと、教員も生徒もよく分からないままデータをためましょうという状況になっている」と説明する。

 高校ではこうした捉え方をされた結果、「入試で評価されそうな活動は何か?」といった本末転倒な話が出てくる。「ポートフォリオのエントリーシート化」とも言うべき問題点は教育情報管理機構でも認識しており、関西学院大学の尾木氏は「入試にフォーカスされているためにJAPAN e-Portfolioが正しく理解されていない」と認めた上で、「進路指導ではなく、高校で学習者が主体となる教育のためのツールとしてJePを使い始めてほしい」と訴えている。

本格利用は2021年度から

 主体性等評価のため、大学入学者選抜でeポートフォリオを活用すると打ち出された割には、JePの会員大学は35校(2019年9月25日時点)で、実際に2020年度入試からJePを利用する大学は25校(同9月20日)にとどまる(図9)。しかも、選抜に直接利用するのは一部で、当の関西学院大学も含め、その対象はほとんどが推薦入試やAO入試。一般入試での利用はわずかだ。

●JAPAN e-Portfolioを入学者選抜に利用する大学
図9 2020年度入試に何らかの形でJePを利用する大学。表のオレンジの大学が「入学者選抜に係るデータとして活用」するとして、対象となる選抜方法などを公表している

 早稲田大学に至っては、JePの研究・開発委託事業のメンバーでありながら、2020年度入試では利用しないことを決めた。その理由について同大の入試センターは「高等学校卒業程度認定試験(高卒認定)に合格した受験者が毎年1000人程度いるが、JAPAN e-Portfolioはそこに配慮していないことと、高校の現場でJePに対してさまざまな意見が出ていることを考慮して見送ることにした」と説明する。

 一般入試でJePを利用する大学が極めて少なければ、高校でeポートフォリオを活用しようという機運は高まりにくくなる。eポートフォリオの活用が広まらなければ、JePの正しい利用、ひいては大学の入試改革もおぼつかなくなる。

 教育情報管理機構の会長を務める金沢大学 学長の山崎光悦氏は、「各大学にJAPAN e-Portfolioへの参加を呼びかけているところで、特に国立大学はこれから増えるだろう。2021年度までには、目標とする100校の参加を実現したい」と意気込む。今後1年で参加大学がどれくらい増えるか注目だ。

一般入試での評価は難しい

 JePを入学者選抜に利用する大学が少ない背景には、もっと単純かつ解決困難な問題がある。一つは、一般入試において大学側がeポートフォリオを使って主体性等を評価する手法が確立していないこと。生徒のポートフォリオを入学者選抜に生かすには、どんな情報を提出させて、そこから主体性などをどう評価するのかを定めた上で、評価する人間によってばらつきが出ないように対策するといった仕組みと労力が必要。だが、そうした取り組みは、主にAO入試や特別入試でしか進んでいない。

 もう一つの問題は、そもそもeポートフォリオは短期間で合否を判定する選抜方法になじまないこと。一般入試の場合、大学によっては10万人を超える受験者がいるため、一人ひとりのポートフォリオを見て主体性等を評価するのは非現実的だ。

 現実的なJePの利用方法として、関係者は主に2つの形を想定している。第一に、テストの点数が合否のボーダーライン上にいる受験生に限ってポートフォリオを評価する方法。一発試験の数点差で合否が逆転するような場合、点数で決めるよりもeポートフォリオの内容を評価して、大学が求める人材像に近い生徒を入学させるという考え方だ。この方法なら、全受験生のポートフォリオを見る必要はないため、大学側の負担は大きくない。佐賀大学は既にボーダーライン上での加点を実施している。

 こうした運用に利用できるシステムは既にある。河合塾が佐賀大学の協力を得て開発した「J-Bridge System」だ。「大学で主体性を評価しようとすると手間が大幅に増えるが、J-Bridge Systemは受験生が提出したポートフォリオを大学のアドミッションポリシーに従って効率良く正確に評価できる」(河合塾 教育研究開発本部 教育研究開発部の野吾教行氏)という。

 想定される2つめの利用法は、従来のAOや推薦入試、特別入試での活用だ。大学には独自のアドミッションポリシーに沿った入学者選抜と入学後の育成が求められており、ペーパーテストだけでは測れない主体性や大学で学ぶ意欲を持った生徒を見いだすには、eポートフォリオが役に立つだろう。