電子調査書との一体運用へ

 文部科学省は、2022年度をめどに調査書を全面電子化する計画だ。関西学院大学を代表大学とするコンソーシアムに電子調査書システムの研究・開発を委託している。

 この電子調査書システムとJAPAN e-Portfolioを一体運用する案が検討されている。教育情報管理機構の山崎会長は「最初はJAPAN e-Portfolioと電子調査書を併用するが、入力の二度手間をなくすためにも最終的に一体化して活用できるようにしたい」と語る。既に2022年4月を目標にした電子調査書システムのイメージが示されている(図10)。

●検討されている電子調査書システムのイメージ
図10 校務システムで作成される調査書とeポートフォリオのデータを一体的に管理、運用する電子調査書システムのイメージ(2019年8月末時点)。教育情報管理機構提供の情報を基に作成した

 一方、文部科学省は「主体性等の評価に調査書を活用するには電子化が必要な半面、高校の教員が調査書に生徒の活動を全て書くのは難しい。生徒が入力するJAPAN e-Portfolioが調査書を補完する関係」(加藤氏)と説明する。

 校務支援システムを使って指導要録から作成する調査書は、成績を含む機微な情報が含まれるため、インターネットから切り離したシステムで運用することでセキュリティを確保するのが一般的。これに、インターネットに開かれたJePからポートフォリオデータを取り込むには、セキュリティ確保のために技術上・運用上の工夫が必要だが、そこはまだ見えていない。

評価する仕組みが必要

 JAPAN e-Portfolioが広く使われるようになるには、まず高校においてeポートフォリオが生徒の学びの深化と授業改善に活用されることが大切だ。同時に大学側では、主体性等をeポートフォリオで公平かつ効率的に評価する仕組みを作る必要がある。

 東京学芸大学の森本氏は「大学の教員も、自分たちが育てたい人材像にマッチした学生が欲しいという思いがあるはず。主体性等の評価は大変だが、効率的に評価するにはどうしたらよいか考える時期に来ている」と指摘する。選抜だけでなく、大学入学後のeポートフォリオ活用も課題だ。

 加えて、ポートフォリオを一般入試で評価する大学が増えないと利用は広がらないだろう。その点、電子調査書とJePが一体運用されれば、使わざるを得ない状況が生まれる可能性はある。eポートフォリオ活用も含めた高大接続改革によって大学での学びと人材育成を変えられるか、これからが正念場だ。

ポートフォリオは「ためること」が目的ではない
森本 康彦氏 東京学芸大学 ICTセンター教授
 人間が獲得しなければならない資質・能力は氷山に例えられます。テストで簡単に測れる知識や技能は水面に出ている氷山の一角で、それ以外の思考力、判断力、表現力や主体性といったテストだけでは測れない力の方が大きいのです。これらの氷山の水面下にある部分が大きいほど、人はぶれることがなくなるのです。こうした資質・能力を評価し、育成していくために有効なツールがポートフォリオです。

 ポートフォリオは、「ためること」に目が行きがちですが、それが目的ではありません。新学習指導要領にもある主体的・対話的で深い学びを実践していけば、ポートフォリオは自然に蓄積されていくはずです。学びの過程を記録したポートフォリオを教員が評価することで、生徒がつまずいているところを把握して、的確なアドバイスができます。それと同時に、自身の教え方に問題がなかったか振り返り、授業を改善していくという好循環が生まれます。これを学習支援としての評価、「アセスメント」と呼んでいます。

 大学の入学者選抜では、AOや推薦などの総合的な選抜方法においてポートフォリオは必須の要素です。失敗談も含めて生徒がどう努力して大学を目指したのか、どのような人間になりたいのかといったテストでは分からない部分が、ポートフォリオを見ることで分かります。生徒の側から見ると、一般入試に限らず多様な選抜方法の中から、自分のポートフォリオが評価される方式を選べるようになるとよいと思います。eポートフォリオの活用により、大学と生徒の本当の意味でのマッチングができるのです。(談)
学びと教えの改善にeポートフォリオを活用
清教学園中・高等学校 (大阪府河内長野市)
 清教学園は早くからeポートフォリオに注目し、活用している中高一貫校だ。ソフトウエア開発会社のNSDと共同でeポートフォリオシステム「まなBOX」を開発。2014年の半ばから情報科で使い始め、今では全学年の全教科でeポートフォリオを利用できるようになった。システムには生徒が学習の過程で作った成果物を各種のファイルとして保存できるのに加え、大会での記録や資格取得なども記録できる(図A)。

図A 「まなBOX」にためたポートフォリオの中から成果を「ショーケース」としてまとめる
 その目的は、学習の過程と成果を生徒が評価、振り返りをして次の学びにつなげていくサイクルを生み出すこと。同校理事・総合企画部長 ICTコーディネータの小林直行氏は、「振り返りを含んだ螺旋的な学習活動の進展がポートフォリオのキモ」だと説明する。同校の情報科で教壇に立つ勝田浩次教諭は、その効果について「一歩一歩振り返りながら前に進んでいくのは教育の基本。eポートフォリオは生徒たちが次の一歩をどこへ向かって踏み出すのかを考えるのに使える」としている。

(初出:2019年10月17日発行「日経パソコン 教育とICT 第10号」、記事の内容は初出時のものです)