四国大学は2021年10月1日、パソコンメーカーのマウスコンピューターとICT環境整備や学術研究などに関する包括連携協定を締結した。同大学は、徳島市内にキャンパスがある私立大学。文学部、経営情報学部、生活科学部、看護学部の4学部、短期大学部、大学院の合計で3000人弱が学んでいる。同大学、マウスコンピューターともに、こうした包括連携協定を結ぶのは初めてだという。

徳島市内にキャンパスがある私立の四国大学
徳島市内にキャンパスがある私立の四国大学
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 両者が協定を通じて取り組むと発表したのは次のような内容だ。
(1)コンピューターサイエンス、データサイエンスの共同研究
(2)eスポーツの共同研究
(3)キャンパスにおけるICT環境整備の共同研究
(4)DXを通した社会課題解決や新しい価値創造ができる人材の育成
(5)その他、大学および短期大学部とマウスコンピューターが必要と認める事項

 中でも教育機関の四国大学がeスポーツの共同研究をパソコンメーカーと連携して打ち出したのはユニークだ。コンピューターゲームを使って対戦する「eスポーツ」は、世界中で参加人口が増えてプロ選手も登場するなど急成長している。一方、日本国内では、数多くのコンピューターゲーム関連企業が存在し、産業として成立しているにもかかわらず、コンピューターゲームはこれまでスポーツや教育としてはあまり注目されてこなかった。

 大学や高等学校などが教育の一環でeスポーツに取り組むようになると、こうした状況が変わる可能性がある。2019年に茨城県で行われた「いきいき茨城ゆめ国体」(茨城国体)では、国体史上初めてeスポーツ大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が文化プログラムとして開催された。新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年の鹿児島国体が2023年に延期され、2021年に開催予定だった三重国体は中止になった。国体自体は延期や中止になったが、全国都道府県対抗eスポーツ選手権は2020年12月と2021年10月にオンライン形式で開催した。オンライン開催が可能なeスポーツの特徴が生かされたといえるだろう。

eスポーツで地域振興を進める徳島県

 四国大学がある徳島県は光ファイバーの整備率が高く、 CATV網の世帯普及率が9年連続で全国1位(2020年3月時点)となるなど情報通信インフラが整っている。こうしたインフラを活用し、 徳島県は企業のコールセンターやデータセンター、事務処理センター、 デジタルコンテンツ事業など情報通信関連産業の集積に注力しており、eスポーツの支援も進めている。

 四国大学で情報化や業務のDX化に取り組んでいる総務・企画部情報戦略課の住吉孝次課長は徳島県庁の職員で、2021年4月から四国大学に出向している。「県では飯泉嘉門知事もeスポーツの普及に力を入れており、四国大学も松重和美学長が新しい教育に取り組むことに積極的で、大学としてeスポーツには力を入れていく」(住吉課長)という。大学では、2021年4月に公認の運動部として「e-スポーツ部」が発足した。

四国大学の情報化や業務のDX化に取り組んでいる総務・企画部情報戦略課の住吉孝次課長
四国大学の情報化や業務のDX化に取り組んでいる総務・企画部情報戦略課の住吉孝次課長
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 徳島県では各地で少子高齢化が進んでおり、地域振興策の一つとしてeスポーツに取り組んでいる。県として市町村や教育機関、民間団体などが実施する非営利のeスポーツイベントに「eスポーツ推進費補助金」を交付している。2020年12月には徳島県と全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)が、四国大学・四国大学短期大学部、阿南工業高等専門学校、サードウェーブと「eスポーツによる地方創生徳島プロジェクトに関する協定」を締結している。

 四国大学で、情報教育を推進する情報教育センターの長瀬大助教は、日本におけるeスポーツの普及と選手レベルの向上を目指す日本eスポーツ連合(JeSU)の下部組織である徳島eスポーツ協会で企画委員も務める。「ほかの都道府県が民間企業が中心となってeスポーツ普及に取り組んでいるのとは異なり、徳島県は自治体や大学などがeスポーツを積極的に推進している」と話す。

 地域連携の一環で、長瀬助教は年50回以上、学校や老人ホーム、障害児施設などで開催するeスポーツに関する講演会や体験会などを支援している。コロナ禍で対面のスポーツや人との関わりが制限される中、eスポーツであればオンラインでコミュニケーションが取れる利点がある。

情報教育センターの長瀬大助教は「多様な学びとして、身体を動かすスポーツと同様に、eスポーツを通して学んでいけるようにしたい。eスポーツの教育的な効果を研究していきたい」と話す
情報教育センターの長瀬大助教は「多様な学びとして、身体を動かすスポーツと同様に、eスポーツを通して学んでいけるようにしたい。eスポーツの教育的な効果を研究していきたい」と話す
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2021年7月3日に四国大学が開催した高齢者向けイベント「お達者企画eスポーツチャレンジ」。eスポーツのデモプレーや技術指導に大学生2人が参加した
2021年7月3日に四国大学が開催した高齢者向けイベント「お達者企画eスポーツチャレンジ」。eスポーツのデモプレーや技術指導に大学生2人が参加した
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 四国大学はこれまで大学教育の中に新しい内容を取り込んできた。マウスコンピューターとの包括連携協定に見られるようにICTに着目して学修のDXを進めているほか、短期大学部音楽科にボーカロイド専門のコースを設けるなど、これまでの大学教育の枠を超えた学びに力を入れているという。2021年度の後期からは大学・短大の全学年を対象とした「AI・データサイエンス入門」のコースも設置した。eスポーツについても、現在は学生の部活動が中心だが、「将来的には、授業のカリキュラムにeスポーツを取り入れることも考えられる」(長瀬助教)。

2021年4月に発足した四国大学のe-スポーツ部は公認の運動部として活動している
2021年4月に発足した四国大学のe-スポーツ部は公認の運動部として活動している
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 JeSUは、超教育協会と共に、eスポーツを通じた教育機会の提供を目指す「超eスポーツ学校」の活動を実施している。ここでは、eスポーツの教育への導入に関心を持つ大学や専門学校、高等専門学校、高等学校、中学校、小学校によるワーキンググループを形成し、共同カリキュラムの作成や修了認定、教育的効果の調査などを進めている。四国大学も超eスポーツ学校に参画しており、将来的にはeスポーツによる学位取得などができるようにすることも考えていきたいという。

 長瀬助教は「身体を動かすスポーツを通じて学べるように、eスポーツから人とのコミュニケーションや脳の働きなどさまざまなことが学べるはずだ。多様な人たちが多様な価値観の下で学んでいくためには、eスポーツを特別視する必要はなく、多様な学び方があっていい。eスポーツにはどのような教育的な効果があるか情報教育を研究する立場として調べていきたい」と話す。