コロナ禍の中、パソコンの使い方が多様化している。モバイルノートや学校向けPCで強みを発揮するFCCLはどんな戦略を採るのか。
──テレワークやオンライン学習が広がり、パソコンの需要が増えました。
Windows 10 への買い替え特需に沸いた2019 年に比べ、2020 年の売り上げは大幅に落ち込むと予測していました。ところが、コロナ禍でテレワークやオンライン学習用にパソコンを購入する人が増え、当初の予測ほどは落ち込まなかったというのが実情です。
ただ、これまで想定していなかったパソコンの使い方が広がることで今後の成長が見込め、プラス材料になると期待しています。例えば、多くの人がオンライン会議の必要に迫られ、パソコン需要が急増しました。これは、パソコンを使ったオンラインのコミュニケーションがいかに少なかったかを物語っています。
既にパソコンがある家庭でも、オンライン会議アプリを使いこなすのは難しいと感じている人は少なくないでしょう。パソコンの便利さをもっとアピールすることも大事だと考えています。当社のパソコンを音声で操作するAIアシスタント「いつもアシスト ふくまろ」は、その一つです。ふくまろは、人とパソコンのインタフェースになり、例えば「マスクを買ってきて」と話しかければ、AI 技術を活用してパソコンがオンラインショップにつながり、マスクを購入することが可能です。ふくまろは役立つだけでなく、ユーザーの気持ちに寄り添い、家族の一員として当たり前の存在になることを目指しています。
パソコンは、これまでの「人対マシン」の関係だけでなく、「人対人」のインタフェースとしての役割も増しています。複数の人が話すオンライン会議の場合、円滑なコミュニケーションにはパソコンのマイクとスピーカーの性能が重要になります。当社の開発部門には、マイクやスピーカーのサウンドづくり専門の「マイスター」と呼ばれるエンジニアがいます。同様に、ディスプレスやキーボードのマイスターなど、豊富な経験と専門知識を持つエンジニアがいます。
──パソコンは国内でも開発していますね。
はい。最軽量のノートパソコンなど、当社独自の製品開発、製造は国内で行っています。お客様の要望に合わせて受注生産するには、マーケットの近くに短期間で生産、納品できる工場があることが必要です。
最軽量ノートの開発についても、こだわりがあります。人は物の見た目で重さを想像します。手で持った際、想像以上に軽ければ評価されますが、思ったより重ければ持ち歩くのをためらうといわれます。こうした点も追究して開発することで世界最軽量のパソコンが生まれました。
当社はレノボグループの一員ですが、グループで同じような製品を作るのでは市場を広げることはできません。グループのスケールメリットを生かして部品共通化はしても、最軽量パソコンの開発のようにユニークな強みを伸ばすことが、グループ全体の成長につながると確信しています。
──9月に子供向けのタブレットパソコン「arrows Tab EH」を発売しました。
全ての小中学生にコンピューターを整備する「GIGAスクール構想」が前倒しになったように、オンライン学習が広まりつつあります。arrowsTab EHはGIGAスクール対応モデルと同等の機能を備えており、子供たちのICTスキルの習得とICTを活用した学習を支援できると考えています。
──教育用コンピューターとして注目されるChromebookを出す計画はないのですか。
やろうと思えば、いつでもできます。当社はWindows をプラットフォームにハード、ソフトを扱っており、長い歴史と豊富な経験があります。今からChromebookを出すのでは、これまで培ってきた当社の優位性を発揮しにくい側面もあります。ただし、Windows にしか対応しないと決めているわけではなく、ニーズに応じてChromebookにも対応できるよう準備は怠らないようにしているつもりです。
──今後の取り組みは?
企業にしても、家庭にしても、お客様の困り事を解決する製品やサービスを提供することが当社の使命です。テレワークやオンライン学習はこれからも続き、いずれ家庭では1人1 台のパソコン環境になるとみています。パソコンのコモディティ化が進む中で、当社の特徴を出していくには、パソコンのハードのみならず、きめ細かなサポートなどサービスが大事です。パソコンを使って便利になること、生活が豊かになることを提案していきます。
(聞き手:江口 悦弘=日経パソコン編集長)
代表取締役社長 CEO
初出:日経パソコン2020年10月12日号