このところ高等学校や大学の教育関係者を中心にeポートフォリオと高大接続への関心が高まっている。国の主導で開発された「JAPAN e-Portfolio」の運営が始まり、2020年度からは大学入学者選抜にも使われる。そんな中、2019年11月13日〜15日に東京で開催された「eラーニングアワードフォーラム」では、eポートフォリオに関する講演とシンポジウムが開かれ、多くの聴講者を集めた。eポートフォリオの研究で実績がある東京学芸大学 ICTセンター教授の森本康彦氏は、講演「AI時代のeポートフォリオ/教育ビッグデータの在り方と活用」において、AIを用いたeポートフォリオ活用法の課題とヒントを示した。

 学習者の学習履歴や活動の過程・成果などを記録したeポートフォリオは、長年にわたり蓄積すれば教育ビッグデータになる。これをAIで分析するなどして、学習者ごとに個別最適化した学習方法を提示するといった活用法が考えられる。これに対して森本氏は、「AIで学習者に合わせた問題を出すソフトが広まりつつあるが、AIに言われるがままに問題を解く“超受け身の学習”になっている可能性がある」と疑問を呈した。学習者の主体性を育めないという課題に対して「AIが指示を出すのではなく、自然に示唆することで学習者が自身の判断で学びに向かうように支援するとよいのではないか」と語った。

東京学芸大学の森本氏は、AIを使うeポートフォリオ活用について、3つの課題を示した(出所:森本氏の発表スライド)

AIが学習者に「声がけ」

 eポートフォリオの主要な意義の一つに「振り返り」がある。学習者が学んだことや活動を振り返り、次のステップにつなげていく。この際、「学びの振り返りにはプロンプトと呼ばれる声がけが大事」(森本氏)だという。森本氏は、機械学習を使ってプロンプトを自動的に出すシステムを研究中だ。グーグルの機械学習クラウドサービスを利用し、登録した文章を分類できるようにする。学習者が振り返りを書くと、内容に応じて適切なプロンプトを表示する。実用化できれば、教員が声がけできない家庭などでの学習でも振り返りができるだろう。

長年eポートフォリオを研究している東京学芸大学 ICTセンター教授の森本康彦氏

JAPAN e-Portfolioは電子調査書に統合へ

 前述の通り、高校生向けのeポートフォリオポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」(以下、JePの運用が始まり、大学入学者選抜(入試)において主体性等の評価に利用される。「eポートフォリオは高大接続改革にどう貢献できるか」と題したシンポジウムには、東京学芸大学の森本氏をはじめ、4人のキーパーソンが登壇した。

大学入試における調査書の全面電子化した際のシステムイメージ。ショーケースとしてのeポートフォリオが組み込まれている(出所:尾木氏の発表スライド)

 文部科学省は、2022年度をめどに調査書の全面電子化を目指している。関西学院大学を代表大学とするコンソーシアムに電子調査書システムの研究・開発を委託している。尾木氏によると、「電子調査書のシステムの中にJePの機能を入れるイメージを描いている。年内には具体的な施策を公表できそう」という。ただし、電子調査書になっても、必ずJePを使わなければならないわけではないとしている。また、JePについては、批判の的になったベネッセコーポレーションのID発行管理システムを「2021年度からリプレースする方向で準備を進めている」(尾木氏)と明かした(関連記事)。

関西学院大学 学長室アドミッションオフィサー 学長特命の尾木義久氏

ディプロマサプリメントにも注目

 ドルトン東京学園 中等部・高等部 副校長の田邊則彦氏は、eポートフォリオシステム「まなBOX」を利用した同校の取り組みを紹介。初等・中等教育でのeポートフォリオ普及のカギについて、「使いやすくて安定したシステムの提供、評価疲れをきたさない支援ツールの開発、教員研修の充実」を挙げた。

早くからeポートフォリオに注目してきた田邊則彦氏は、2019年に設立されたドルトン東京学園 中等部・高等部でも導入した

 濱名学院 合併推進本部合併推進室 室長の得永義則氏は、同氏が携わった金沢工業大学と関西国際大学でのeポートフォリオ活用事例を紹介した。金沢工業大学では、以前から蓄積していたポートフォリオのデータを米IBMの人工知能サービス「Watson」で分析する「自己成長支援システム」を2017年から運用している。

 濱名学院が運営する関西国際大学では、「学修フローチャート」を参考に学生一人ひとりがeポートフォリオ上に「ラーニングルートマップ」を作り、最終的にディプロマサプリメント(学修内容を示す様式)を生成する仕組みを作っているという。ディプロマサプリメントは文部科学省の「大学教育再生加速プログラム」でも研究開発の対象になっており、今後注目度が高まる可能性がある。

関西国際大学などを運営する濱名学院で合併推進本部合併推進室 室長を務める得永義則氏