日本マイクロソフトは2020年10月20日から12月21日にかけて、ICT活用教育に関するオンラインセミナー「Windowsと未来の学び」を開催している。セミナーでは、教育委員会向けの「戦略から事例まで~GIGA最前線」、学校の教職員向けの「ICT授業活用の実践」、幅広い教育関係者に向けた「これからの学びと社会」の3分野に分かれて、有識者や教員などのセミナーを順次公開している。公開済みのセミナーは、参加定員1000人の事前登録制で無料で視聴できる。

 教育委員会向けの「戦略から事例まで~GIGA最前線」では、一般社団法人ICT CONNECT21会長、東京工業大学名誉教授の赤堀侃司氏によるセミナー「GIGAスクール構想による学校の姿」を公開している。

 ICT CONNECT21は、文部科学省が推進するGIGAスクール構想を支援するため、2020年5月に企業・団体・教職員・個人によるGIGAスクール構想推進委員会を設立し活動を続けている。赤堀氏は、GIGAスクール構想でなぜ児童・生徒に1人1台のコンピューター端末の整備が必要なのかについて説明した。まず、日本の教育は集団としての規律などは優れているが、児童・生徒の個々人を伸ばす文化になっていない、いじめ・不登校なども個としての違いを認めないことも要因として考えられる。パソコンなどコンピューター端末を個の創造性や表現能力を高める道具として活用したいと話した。

国際的な学習到達度調査「PISA」の際に、日本は学校外でデジタル機器を学習に活用する比率がOECD平均を大きく下回ることが明らかになった
国際的な学習到達度調査「PISA」の際に、日本は学校外でデジタル機器を学習に活用する比率がOECD平均を大きく下回ることが明らかになった
出所:赤堀侃司氏の講演資料
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 OECD(経済協力開発機構)が義務教育修了の15歳児を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について学習到達度を調査する「PISA」(生徒の学習到達度調査)の2018年調査で、日本の子供の読解力は参加79カ国・地域で前回の8位から15位に大きく順位を落とした。ほかの数学的リテラシー(1位)、科学的リテラシー(2位)は世界的にトップレベルを維持しているのに比べて、読解力の国際順位が大きく落ち込んだ。同時に実施されたICT活用調査では、日本は学校外でデジタル機器を学習に活用する比率がOECD平均を大きく下回り、ゲームやチャットなど遊びの道具としての利用は同平均を上回っていることが明らかになった。

 赤堀氏は、PISAの調査で読解力の順位が下がったのは、日本の子供は読解力がないわけではなく、学習のための情報活用力が低いことが問題だと指摘した。これを改善するためには学習のためのデジタル端末を1人1台利用できる環境を作っていく必要があるとした。1人1台の端末整備は、子供たちにとってコンピューター端末を遊びの道具から、学習や表現のための道具に転換し、これまで社会と分断されてきた学校教育に社会のモデルを取り入れて統合するためのパラダイムになるという。

 学びのデジタル化によって個々の児童・生徒の学習ログを収集して分析できれば、医療現場での患者カルテと同じように、教育分野でも学習カルテの導入ができる。学習の結果を見るだけでなく、学習の過程から個々の児童・生徒の学びを診断して指導することができるようになれば、学習ログというエビデンスに基づいて、児童・生徒1人ひとりに対して最適化した学びが提供できると話した。

フルクラウド化を進める埼玉県鴻巣市

 GIGAスクール構想の実践事例としては、教育ICT環境をフルクラウド化した埼玉県鴻巣市の取り組みを、市長の原口和久氏と教育委員会の新井亮裕氏が紹介した。

 人口11万8000人の鴻巣市では、小学校19校、中学校8校で約8500人の児童・生徒が学んでいる。同市は教育の情報化に積極的に取り組み、2019年9月に市の「学校教育情報化推進計画」を策定、GIGAスクール構想前から機器の入れ替えに合わせて教育の情報化を推進してきた。

鴻巣市ではICT環境整備に当たってフルクラウド化を進め、セキュリティ維持に努めている
鴻巣市ではICT環境整備に当たってフルクラウド化を進め、セキュリティ維持に努めている
出所:鴻巣市の講演資料より
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 同市ではICT環境の整備に当たって、フルクラウド化を進め、学術情報ネットワーク「SINET」への接続を予定している。これまでは庁舎や各学校にサーバーを設置したオンプレミス型の運用を行ってきたが、トラブル対応やハードウエアの運用管理、入れ替え対応などの運用負荷が大きかった。また、教育基盤を更改する際に児童・生徒の成績や個人情報などを扱う校務系システムなどでのセキュリティ対策が重要で、子供たちがどこでも学べる環境を実現する必要があった。

 システム面では、フルクラウド化でマイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Azure」を採用。情報端末は、Windowsパソコンを導入する。

 同市では今後、ICT機器を文房具のように日常的に使える、学習者中心のICT活用を進め、学びのスタイルを多様化するなどして、児童・生徒が新しい時代に必要な資質・能力を獲得することを目指す。また、校務の負担軽減、子供たちの状況の可視化などを推進し、教職員が子供と向き合う時間を創出するという。