大学では感染症対策としてだけでなく、オンライン・オンデマンドの良さを生かした授業を今後も続けていこうという機運が高まっている。具体的にはどんな授業なのか。ここでは、私が某大学のオフィスソフトのスキルを養うことを目的とした科目において、オンラインで学生が実習できるように、LMS上に構築した仕組みと実際の取り組を報告する。(清水 哲郎)

 一般的な講義科目でオンライン授業を実施する場合、各大学が採用しているLMS(学習管理システム)やグーグルの「Classroom」などのクラウドサービスを用いて、授業資料を配布してレポートの提出を求める方式や、「Zoom」などのオンライン会議サービスを利用して講義を実況する方式が採られた。しかし、そういった方法だけでは授業を行うのが困難だったのが、実習や実験を伴う科目だ。

 理工学系や医療系の大学・学部で実験や実習が必要なのは当然だが、文系の大学・学部でも、パソコンの基本的なリテラシーを学ぶ情報系科目では実習が欠かせない。学生は、オフィスソフトなどのアプリケーションを実際に操作してスキルを身に付ける。

Moodleでコースを構築

 もう20年近く、パソコンのスキルを養う科目を担当して教えてきた。近年痛感しているのが、大学に入ってくる学生のスキルが全体的に低下し、さらに学生間のスキル差も拡大していることだ。高校の教科「情報」の中でパソコンに触れる機会が減ったことに加えて、スマートフォン(スマホ)の普及により自宅でもパソコンに触れなくなったことが原因だと考える。

 直接学生の様子を見られる教室での対面授業でも、パソコンを活用するスキルの低下や格差に苦慮していたのに、目の行き届かないオンライン授業ではどうすればよいのか。

 まず検討したのが、Zoomの画面共有機能を使い、口頭で説明しながら実際にパソコンを操作している様子を配信して、学生に対して同時に実習させる方法だ。これまで教室で行っていた授業をオンラインに置き換えるだけなので、事前準備も最小限で済むが、学生の進みをリアルタイムに確認できない環境では、途中でついてこられなくなる学生がこれまで以上に多く出る恐れがある。

 次に、市販されている実習用テキストを購入させて、それに従って学生に実習させる方法を検討した。

 リアルタイムでZoom を併用して、質問を受けたり補足説明したりすれば、授業としては成り立つだろう。しかし、Windows ではなく、Macを使っている学生が少なからずいることが分かっていた。このため、Windows 版とMac 版両方の「Word」や「Excel」の使い方を説明している書籍を探したが、そんな都合の良い書籍は見つからなかった。

 そこで、Moodle(ムードル:オープンソースのLMS)の「小テスト」機能を利用して、学生が自宅のパソコンを使って実習することをナビゲートする「実習Navi」という仕組みを構築することにした(図1)。

●学生が自宅パソコンで実習するMoodleコースを作成
●学生が自宅パソコンで実習するMoodleコースを作成
図1 以前からファイルの配布や課題の回収などに使っていたMoodleコースに、学生の実習をナビゲートする仕組みを追加した
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 従来の対面授業において教卓のパソコンを操作しながら学生に口頭で指示していた内容を、Moodleの小テスト機能に書き起こすことで実習Naviのベースとなるものはできた。実際には、それだけでは不十分で、Macを使っている学生向けの説明など、学生一人ひとりの環境の違いを意識して、かなり説明を書き足す必要があった。そのあたりの環境の違いについては後述する。

スマホとパソコンを併用

 学生の視点に立って自宅でどのように実習するか、説明しよう。学生の多くは、スマホで実習Naviの画面を見ながら、その指示に従って、パソコンのWordやExcelを使って実習をしていた(図2)。学生はパソコンのディスプレイにいくつものウインドウを並べて表示するより、スマホを見ながらパソコンを操作する方が、なじみがあるからだ。

●学生の多くはパソコンとスマホを併用して実習
●学生の多くはパソコンとスマホを併用して実習
図2 スマホの「実習Navi」画面を見ながらパソコンで実習をするのが、学生の一般的な受講スタイル
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 実習Naviの画面では、その画面で学習することの概要説明に続けて、「操作1」「操作2」というように、実際に学生が取り組む操作を箇条書きにしてある(図3左)。

 キャプチャー画面は、ボタンの位置などが分かりづらい場合だけ載せた(図3右)。全ての操作に画面キャプチャーを載せた方が分かりやすいが、低速・不安定なネット環境で接続している学生でも支障なく閲覧できることを優先させた。

●パソコン操作を「実習Navi」で学生に指示
●パソコン操作を「実習Navi」で学生に指示
図3 「実習Navi」の操作指示は文章だけが基本だが、文章では分かりづらい場合は画面キャプチャーを入れた
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 それに加え、市販されている図解本のように、全ての操作に画面キャプチャーを載せると、説明文を一切読まず、画面だけを見て操作する学生が出る懸念もあった。実習Naviで指示されたボタンなどがどこにあるか、学生が自分で探すことにも意味があると思い、あえて不親切にした面もある。