2021年11月19日~20日、日本教育工学協会(JAET)の主催による第47回全日本教育工学研究協議会全国大会(大阪大会)がオンライン形式で開催された。先進的な7校の授業が紹介された中で、大阪府立夕陽丘高等学校は情報、理科に加えて音楽の授業を2つ公開。同校は、普通科と音楽科を持つ公立高校で、コンピューターを駆使したユニークな音楽の授業内容を紹介した。

若者に人気のヒップホップを授業に採用

 音楽の授業の1つめは、同校教諭の河合悠吾氏による「言葉の響きからビートを引き出す」だ。作曲アプリを利用して若者に人気のヒップホップの音楽を作成し、トラック編集の仕組みを学ぶ。

 ヒップホップには「チョップ&フリップ」という独特の技法があり、音声をデジタル処理で細切れにして韻律を取り出し、それを再配置することで全く別の音楽を構成する。授業ではこうした技法やアプリの基本操作を学んだ後、グループに分かれて音楽作りに取り組んだ。最終的にグループ発表を行い、相互に作品を批評した。

 河合教諭はこの授業の長所として「楽譜を使った一般的なリズムアンサンブルの授業よりも取り組みやすく、相互評価をすることで鑑賞にも積極的になった」ことを挙げた。一方、短所としては「作業時間が想定以上にかかる、作業が端末の持ち主中心になってしまう、相互評価が甘くなりがち、言葉の音楽的特性まで踏み込んで考察させることが難しい」などの点を挙げた。

多重録音を利用してハーモニーの制作に取り組む

 2つめの公開授業は山本伸子教諭による、多重録音を利用して生徒一人の声で合唱音源を作る授業だ。公開授業では、音楽科で声楽を専攻する1年生11人が、iPadの音楽制作アプリ「GarageBand」を利用して、6声によるハーモニーの制作に取り組んだ。

アップルがiOS/iPadOS向けに提供する「GarageBand」。音楽の作曲、演奏、録音ができる
アップルがiOS/iPadOS向けに提供する「GarageBand」。音楽の作曲、演奏、録音ができる
出所:アップルのWebサイト
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 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、授業の現場では大人数での合唱に制約が生じている。こうした中で、周囲の音を聴きながら歌うことが難しくなっているという。多重録音を利用して、「正しい音程でハーモニーを作る耳と声」の力を身に付けるとともに、自分の声を客観的に聴くことにより自分でしっかり歌う力を養うことを目指した。

 録音は、個室の音楽練習室に分かれて実施した。生徒は、ベースになるピアノ演奏を録音しているファイルに対して、「録音」「聴く」「修正」を繰り返して、作品を作り上げた。指導に際して、「演奏を振り返り、修正することでリズム、音程、音色などの音楽を形作っている要素に焦点を当て創意工夫させる」ことに留意したという。また、創意工夫した点や表現の意図などを生徒が「アセスメントシート」に記入することで、生徒自身の自己評価につなげた。こうした取り組みの途中で、機器やアプリの操作、作品づくりなどについて、教員が個別に指導した。

 収録後は、教室でほかの生徒の作品を聴きながら、「良いところを参考にして取り入れる機会にした」(山本氏)。さらに、11人の作品を多重録音した66人の「大合唱」を山本氏が制作して披露。授業の最後には生徒に対して、「ICTを活用した音楽」と「生演奏の良さ」の両方を知った上で使い分けていくことの大切さを伝えた。

 今回の取り組みについて山本氏は、「録音した生徒の声を聴くことで、1人ずつの声の課題、何か困っているのではなど、細かな気付きがあった」と振り返っていた。また、コロナ禍が終息して従来の形式での授業が可能になったとしても、「年に1回、短いものでよいので、1人の声に向かい合って聴くことが必要と感じた」と言う。