紙の教科書がなくてもOKに

 仮に学習者用デジタル教科書が無償化されたとして、紙の教科書はどうなるのだろうか。デジタルと紙の両方を無償供与する財政上の裏付けはないので、学校の設置者がどちらかを選んで無償にすることになるだろう。あるいは、基本はデジタル教科書だが、各学年に1クラス分の紙の教科書を用意しておき、紙を使いたいときだけ使い回すという運用も考えられる。

 現行の制度下では、学習者用デジタル教科書は無制限に使えるわけではない。「紙の代わりにデジタル教科書を用いる授業は、各教科の授業時数の2分の1未満」という制限がある。デジタル教科書を本格導入するにはこれが障壁になるため、児童・生徒の健康に配慮しつつも、制限は撤廃されるとみられる。そうなれば、紙の教科書を用意しておく必要はなくなり、子供たちは重い教科書や辞書を持っていかずに済むようになる。

 こうした障壁を乗り越えても、万事解決といかないのが学習者用デジタル教科書の難しいところ。これ以外にも技術的・制度的な課題が少なからずある。例えば、インストールや保守にかかる手間や費用。児童・生徒全員のコンピューターに1台ずつデジタル教科書のアプリやコンテンツをインストールしていては作業量が膨大になり、学校の現場で対応するのは現実的ではない。かといって作業を外注すれば相当の費用が生じるし、それを教科書会社が負担するのも無理がある。

3つのOSに対応できるか

 各プラットフォーム(OS)への対応も求められる。Windows 10だけでなく、GIGAスクール構想でシェアを広げる見込みのChromebook(Chrome OS)、iPad(iOS)でも使えなければならない。もしプラットフォームごとにデジタル教科書のアプリを開発すると、多大な費用と時間がかかってしまう。

 これらの課題を解決できる合理的な方法はクラウドサービス化だ(図5)。すでにビジネスの世界では多くのアプリケーションがSaaS(Software as a Service)に移行している。かつては各パソコンにアプリをインストールしたり、社内のサーバーに専用システムを構築したりしていたが、今はクラウドで提供されるアプリケーションを必要なときに必要なだけ使うようになった。

●クラウド化したデジタル教科書のイメージ
図5 クラウドサービスとして提供される学習者用デジタル教科書のイメージ。すでに身の回りにあるクラウド型コンテンツ提供サービスと仕組みは変わらない

 これと同様にデジタル教科書も、学習者用コンピューターには専用ビューワーかWebブラウザーだけインストールしておき、教科書の中身(コンテンツ)はインターネット経由で配信すればよい。現在でも一部の教科書会社では同じような仕組みを取り入れてはいるが、今後は完全にクラウド化しないと、全ての自治体、学校の要求に応えるデジタル教科書を提供するのは難しくなるのではないか。