検定制度まで踏み込む?

 教科書の完全デジタル化には、制度面での見直しも欠かせない。例えば、今の学習者用デジタル教科書はデジタルならではの強みを存分に発揮できていない。デジタル教科書の内容は紙と同じと決められているため、独自の動画やネーティブスピーカーの音声といったコンテンツは入れられない。機能は、表示の拡大・反転、教科書への書き込み、機械音声による読み上げなどに限られる。

 教科用図書検定(教科書検定)制度の見直しにまで踏み込む必要があるかもしれない。前述のように現在のデジタル教科書は、紙と同じ内容なので問題ないが、デジタル版が主になれば「デジタル教科書を検定するのか」という話が出てくるはず。動画や音声などのリッチなコンテンツのデジタル教科書を検定するのに、紙の教科書と同じ基準や手続きでよいのかという議論も起こるだろう。

 デジタル教科書がクラウド配信になれば、これまで紙媒体を前提としてきた教科書供給制度も変えざるを得ない。実際、文部科学省の「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」では、検討の視点として「教科書検定や教科書採択、教科書の供給といった現行の教科書制度等の見直しの必要があるか」という事項を挙げており、同省が教科書制度の抜本的な見直しまで視野に入れていることが分かる。

学習指導要領にコードを付ける

 学習者用デジタル教科書の導入は、単に教科書が紙からデジタルに変わる以上のインパクトをもたらす。先に、世の中のデジタル化を考えてみれば分かりやすい。 例えば、紙の伝票や帳簿で管理していた商品をコンピューターのデータベースに置き換えれば、電子的に情報をやり取りできるだけでなく、どんな商品がいつ、どれだけ売れたのかというデータを分析することで、在庫の適正化や新製品の開発などに役立てられる。

 急速に普及しているキャッシュレス決済も同じだ。利用者にとっては現金がカードやスマホアプリに替わっただけに見えるが、その裏では利用者がどこで何を買ったのかといった情報が集められ、ビッグデータとして解析されてマーケティングに利用されている。デジタル教科書でも同様なことが起こるし、そうでなければ真のデジタル化とは言えない。

 教育データを有効活用するために進められているのが、学習指導要領に対するコード付与と教育ビッグデータの標準化だ。文部科学省は年内に「教育データ標準第1版(学習指導要領コード)」を公表する。学習指導要領の内容や単元などにルール化したコードを設定することで、学校や個人ごとに学習データを横断的に分析するなどの活用を可能にする(図6、図7)。2024年度から本格導入される学習者用デジタル教科書は、このコードに対応するはずだ。

●学習指導要領にコードを付与して参照可能にする
図6 文部科学省は学習指導要領の内容にコードを付与する。「教育データの利活用に関する有識者会議」において案が示されている。出所: 文部科学省「学習指導要領のコード化(案)について」
図7 コード化のイメージ。この案では学習指導要領の教科、単元に対して機械的にコードを振っていく。出所: 文部科学省「学習指導要領のコード化(案)について」