GIGAスクール構想の環境整備が順調に進む一方、ICTを授業で思うように活用できないという問題に直面している。急な端末配備に現場が追い付いていない面もあるが、ICT環境整備をなおざりにして、学校での日常的な活用をしてこなかったツケが回ってきた。端末活用の課題と解決策を探る。
2021年8月末、全国21の都道府県に緊急事態宣言が出されたまま、多くの小中高等学校が新学期を迎えた。さいたま市は新型コロナウイルス感染症対策として、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型*の授業を始めた。小中学校の1〜2割の児童・生徒が、登校を避けてオンラインで授業を受けることを希望した。GIGAスクール構想により配備された1人1台のコンピューターと高速ネットワークを生かしたハイブリッド授業は、感染症対策として賢い選択だと思われた。
* 大学では、対面授業を同時に配信して学外からオンラインで授業を受けられる方式はハイフレックス(高柔軟性)型と呼ぶことが多い
ハイブリッド授業の失敗
ところが現実には、本格的に授業が始まると大規模なアクセス障害が発生し、多くの児童・生徒がオンライン授業を断念して登校する事態となった。さいたま市の小中学校が利用しているインターネット回線と教育機関向けプラットフォームが、授業によるアクセス集中に耐えられなかった。
つながらないだけでなく、肝心な授業の質や教員のスキルにも問題があったと指摘する保護者は多い。保護者にしてみれば、「税金で端末を整備して半年がたったのに、これまで何をしていたのか」といういら立ちがある。教員からすれば、「やることが多い中、夏休みの最後に突然ハイブリッド授業と言われても対応できない」という不満があるだろう。さいたま市教職員組合は、「教職員はハイブリッド授業の準備に2日の猶予しか与えられなかった」として、教育長宛てに抗議文と公開質問状を送っている。そして、オンライン授業を選択した児童・生徒の多くは、自宅での学習を諦めて学校へ向かった。
さいたま市に限らず、同じような状況の自治体は全国にあるとみられる。子供たちを守るためハイブリッド授業にチャレンジしたさいたま市は、まだ良い方とも言える。
文部科学省の調査によると、2021年7月末には小中学生1人に1台のコンピューターがほぼ配備された(図1)。同時に高速な校内ネットワークも整備したが、インターネット回線の帯域が不足するため、接続方式をセンター集約から直接接続に改める学校が急増した(図2、図3)。
端末を持ち帰れない
同じ調査で、「平常時の端末の持ち帰り学習の実施状況」を聞いたところ、実施している学校は4分の1ほどしかなかった(図4)。非常時の持ち帰りでも、3分の2以上の学校は実施も準備もしていないため、学校休業になった際に端末を持ち帰って家庭で授業を受けられる体制は整っていない。これらは、GIGAスクール端末活用における課題だ。
デジタル教科書の未整備も、端末活用の障害になっている(図5)。公立の小中学校における学習者用デジタル教科書の整備率は、わずか6.3%に過ぎない。主たる教材である教科書のデジタル化は、GIGAスクール端末活用のカギを握る。
小中学校ではハード面の基盤はおおむね整った。一方で、端末の持ち帰り学習やデジタル教科の整備、さらに授業を担当する教員のICT活用指導力の不足など、ソフト面での課題が次々に浮かび上がってきている。
図2〜図4の出所:文部科学省「GIGAスクール構想の実現に向けた校内通信ネットワーク環境等の状況について」2021年5月末時点
図5の出所:東京学芸大学附属小金井小学校 教諭の鈴木秀樹氏が「New Education Expo 2021」において発表した活用事例
初出:2021年10月18日発行「日経パソコン 教育とICT No.18」