ソニーから分離・独立して7年目を迎えたVAIO。「挑戦」「デザイン」をキーワードに新ブランドメッセージを打ち出している。何を目指すのか。

──全社的なスローガンを発表しました。狙いは何ですか。

(撮影:稲垣 純也)

 これまでVAIOという会社と関わる中で、「VAIOらしさ」とは何なのか考えてきました。仕事で使うノートパソコンに欠かせない高い性能や信頼性といった価値観は全社で共有しているものの、明文化はされていませんでした。そこで社長就任後、社内にブランドプロジェクトチームを立ち上げ、VAIOブランドとは何なのか、ブランドミッションを検討してきたのです。

 そうして、できたのが「挑戦に火をともそう。デザインと技術で、世界中のイノベーションを加速する」というブランドメッセージです。この「挑戦」には、私たち社員だけでなく、VAIOに部材などを提供するサプライヤー、VAIOを使うユーザーと一緒にイノベーションを作り出して未来を切り開き、世界中の挑戦する人をワクワクさせるといった意味が込められています。

 登山家が、新しい登山用具を開発するメーカーやサポートする人たちと一緒に山登りに挑戦するのと同じです。ブランドメッセージは「火をともす」ではなく、「火をともそう」としていることも、皆さんと一緒に挑戦していく当社の姿勢を表しています。

──パソコンメーカーなので「技術」は分かりますが、「デザイン」をメッセージに入れた理由は?

 デザインとは、課題を解決する姿勢だと考えています。例えば、製品の設計ではユーザーの使いやすさを考えてデザインしたり、製造ではどう作れば品質の高い製品ができるのか考えて生産設備をデザインしたりします。さらに部材の調達、品質保証、営業、マーケティングなど、VAIOの全社員がデザインに関わるという考え方を含めブランドミッションを定義し、これを軸に事業を進めています。

 機能美とでも言いますか、機能に裏打ちされたデザインにはちゃんと理由があるのです。当社の製品は、単にスタイルが格好いいだけでなく、仕事で長時間使ってもきちんと動き続ける信頼性や入力しやすい操作性など、使い勝手を高める機能的なデザインが評価されていると自負しています。

──具体的には、どんなところがビジネスユーザーから評価されているのですか。

(撮影:稲垣 純也)

 例えば、12.5型ディスプレイのモバイルノートパソコン「VAIO SX12」は、コンパクトな筐体に一般的なデスクトップ機と同じフルサイズのキーボードを搭載しています。薄い本体の側面にある端子に重なるように幅いっぱいのキーボードを配しているので、「いったい内部の基板はどうなっているのか」という質問を受けることがあるほどです。設計や製造などの技術者がビジネスユーザーの快適な入力操作にこだわり、実現しました。

 ビジネスの現場で求められる多様なインタフェースに対応できるよう、モバイルノートであってもアナログRGBやHDMI、USBといった端子をフル装備するなど、さまざまな周辺機器をつないで仕事ができることも、VAIOが重視してきたことの一例です。

──しかし、パソコンという分野にとどまっている限り、一定以上の成長は見込めないのでは?

 ノートパソコンの開発で培った技術力をほかの事業領域に広げています。例えば、コロナ禍でテレワークが広がっていますが、自宅など社外から安全に社内ネットワークへアクセスできるセキュリティ環境の提供にも力を入れています。リモートアクセスで一般的に利用されているインターネットVPN(仮想プライベートネットワーク)に代わる方法として、パソコンに装着するSIMと仮想閉域通信を組み合わせた「VAIOSecure SIM」を企業ユーザーに提供しており、今後も新しいサービスを投入します。

──安曇野にドローンの新会社を設立したのも、その一環ですか。

 産業用ドローンは市場規模の拡大が見込まれています。VAIO発祥の地である安曇野にドローンの機体開発とソリューションを提供する子会社を設立しました。国内外の企業とのオープンイノベーションによるドローン事業を進めています。長野県で発生した豪雨による土砂崩れ被害の調査にも、産業用ドローンのソリューションが活用されました。

 私たちは「空飛ぶロボット」と言っていますが、産業用ドローンの開発には精密なコンピューティング技術やロボティクス技術が必要です。当社の設計・製造技術やサプライチェーンのマネジメントなどのノウハウを活用し、既に実績を積み重ねているところです。

(聞き手:江口 悦弘=日経パソコン編集長)

山本 知弘氏
社長
早稲田大学大学院 理工学研究科を修了。シンクタンクで研究開発職に従事した後、経営コンサルティングファームに転じる。日本産業パートナーズ入社後、複数の投資先企業に取締役など経営陣として参画。2015年には社外取締役としてVAIOに参画し、執行役員副社長を経て2019年8月から現職。

初出:日経パソコン2020年11月9日号