2020年11月8日〜15日にわたって開催された「Kumamoto Education Week 2020」。「Wel-beingを実現するための教育」をテーマに、ICT教育に関する講演、教員や生徒による実践発表、フォーラム、パネルディスカッションが行われ、さまざまな分野のプロフェッショナルが参加した。

 特筆すべきはこのイベントがオンライン開催であったこと。コロナ禍という逆境をチャンスに変え、オンラインでしか成し得ないメリットを十分に享受できるイベントだった。

 メリットの一つは、講演やパネルディスカッションはYouTubeのライブ配信やZoomによるオンライン会議の形式で行われたため、誰もがどこにいても気軽に視聴できたことだろう。これは登壇者も同様で、海外在住の専門家などが登場しリアルタイムにディスカッションが行われていた。視聴者として参加している私たちが、チャットで意見を交わせた点も面白い試みだったと言える。

 それらのほとんどが現在でもアーカイブとして残されており、リアルタイムで視聴できなかった人でもじっくり見ることができる。これもオンライン開催のメリットだろう。

 この種のイベントでは、うまくいった取り組みや理想的に進んだ事例が発表されることが多いが、コロナ禍の全国一斉休校をICTを使ってどのように乗り切ったかといったリアルな発表も興味深かった。

 Kumamoto Education Week 2020を終えて、熊本市教育委員会の遠藤洋路教育長に話を聞いた。

「Kumamoto Education Week 2020」のWebサイト。イベントが終了した現在も動画をアーカイブで視聴できる

ICT導入は学びを止めない手段

 熊本市では2018年から3年計画で市内の全公立小中学校に2万3460台のiPadの導入を決定。児童・生徒3人に1台、特別支援学級の児童・生徒1人に1人、教員1人に1台、の割り当てで試算されている。現在は、1人1台の情報端末を配備するという「GIGAスクール構想」に向けて計画を加速中だ。

 その計画を陣頭指揮する遠藤洋路教育長に、1人1台のiPad導入を進める理由を聞いた。

 「iPadを導入するのは、2020年度から施行の学習指導要領で示されている『主体的・対話的で深い学び』を実現するためです。子どもが主役になる授業、子どもの力を引き出す授業というのは、戦後教育でずっと言われてきたことですが、iPadを活用することでようやく実現できるようになってきました」

 ICT機器を導入すること自体が目的になってはいけないと遠藤氏は続ける。「一部の大学の特別な付属校や、カリスマ教員のいる学校なら、ICT機器が無くても子どもの力を引き出す授業ができるかもしれません。しかし、ICT機器を使うことでどんな学校でも理想とされる教育に手が届くようになったと感じます」

 2016年4月の熊本地震を教訓に、どんな災害があっても「学びを止めない」ためのインフラ作りとして、教育現場へのICT導入計画を本格化した。

 ICT機器導入で最大の障壁は何かとの問いに、「予算です」と遠藤氏は即答する。しかし、熊本市は地震からの復興を進める厳しい予算の中で市内の小中学校に2万台を超えるiPadの配備を決定している。「震災を経験して、教育を強くしなければならない、何があっても自分で考え行動できる子どもを育てなければならないと決意しました」との言葉からは、強い意志が感じられた。

教育現場のICT機器活用を進める熊本市で、計画を陣頭指揮する熊本市教育委員会の遠藤洋路教育長
出所:Kumamoto Education Week 2020オンラインイベント映像より
iPadが公立中学校の生徒に配布される様子。Wi-Fiネットワークが整備されていない場所でも使用可能な「Wi-Fi+Cellular」モデルだ
出所:Kumamoto Education Week 2020オンラインイベント映像より

熊本市が教育現場でのICT活用で躍進する理由

 ICT端末は学校内だけでなく、家にも持ち帰って自宅学習に利用する。あるいは、修学旅行などにも持参すると考えたときに、ノートパソコンよりもタブレット端末の方が適していると考えたという。その中でもiPadを選択した理由は、製品としての完成度が高く、安定して使えると共に、さまざまな面で使いやすかったからだとか。

 その結果、Wi-Fiネットワークが整備されていない場所でも携帯電話回線を通じてインターネットに接続が可能な「Wi-Fi+Cellular」モデルのiPadが選定された。

 熊本地震直後の災害支援としてiPadや他社製タブレットなどが企業から無償提供されたが、実際に授業で使ってみるとiPadの優位性は明らかだったと遠藤氏は語る。

 配備されたiPadは、教員用も含めて熊本市教育センターが一括管理しているため。学校現場ではシステム上の管理負担はほぼない。iPadを活用するために、校長レベルでの研修や学校の核となる教員への研修も行っているそうだ。重要なのは「新時代の学びに向けて授業を変えるという、iPad導入の目的を全体で共有していること」と遠藤氏は強調する。

 子どもたちが使うiPadは、各自が自由にアプリをインストールできないこと、ネットワーク系のフィルタリングが設定されていること以外はほとんど制限をかけていないそうだ。OSやアプリのアップデートも各自に任されている。

 遠藤氏は「iPadの制限を緩めるのは教員の裁量でできますが、制限を厳しくする場合は教育委員会の会議にかける必要があります」と語る。一般的な管理方法とは逆のように思えるが「学校ではあれもダメこれもダメという傾向になりがちですが、せっかく配備するiPadの良さを発揮させなければ意味がありません。初めにこのような仕組みを作って、子どもたちが自由に使えるようにすることが大切です」と語る。

 遠藤教育長の言葉やオンラインで実施されたKumamoto Education Week 2020からも、「自分の人生と周りの世界をいい方向に変えていく意思や能力を持った子供を育てる」ためにICTを活用し、熊本から教育を変えていくという大きな決意を感じられた。

熊本市教育センターでは教員、保護者、児童・生徒それぞれに向けた、ICT端末導入に向けたリーフレットを作成している。図は児童・生徒向け。さまざまな注意事項はあるが、システム上の制限はほとんどないことが分かる
出所:熊本市教育センター
熊本地震の教訓をもとに学校でのiPadの活用は進んでいたが、遠隔授業は新型コロナ禍を全国一斉休校を契機に一気に進んだ
出所:Kumamoto Education Week 2020オンラインイベント映像より