大学ICT推進協議会(AXIES)は2021年12月15〜17日、2021年度の年次大会を開催した。2020年は新型コロナウイルスの感染症の拡大により完全オンラインで実施したが、今年度は感染症対策をした上で、幕張メッセ国際会議場(千葉県)を会場に、オンラインとのハイブリッドで開催した。展示会や情報交換会など会場でのみ参加できるプログラムのほか、全体会や企画セッションなどはオンラインで配信した。

 全体会では2つの基調講演が行われ、まず米国の非営利団体EDUCAUSEの副会長であるスーザン・グラジェク氏が「高等教育のデジタル変革」と題して講演した。EDUCAUSEは全米約1600の大学や教育関係組織、約250の国際機関が加盟しており、大学等のCIO(最高情報責任者)から研究者・現場職員までICT専門家を組織化している。AXIESとは提携関係にある。

 グラジェク氏は「2008年のリーマンショックの金融危機で大学など高等教育機関は財政面で影響を受け、技術担当者などを大幅に削減してきた。それが新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で、オンライン教育の需要が高まり、どの大学もICT担当者を大幅に増やしている」と話した。

 セキュリティや個人情報保護のため、大学によってはセキュリティ担当の職員数は以前の10倍に増えているという。デジタル投資などIT関連予算が急増して運営費がかさむ一方で、新型コロナウイルス感染症の影響で対面の授業も制限されており、授業料だけでは大学の運営を続けることが難しい状況になっている。

 グラジェク氏は「大学の持つ文化、職員の働き方、テクノロジーの使い方などについて高等教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることが重要だ」と話した。

 単に従来の授業をオンラインで行うのは、対面(アナログ)授業のデジタル化に過ぎず、大学の経営自体にデジタル戦略を組み込む必要があるという。それにより、教育がより良くなり、より高度な研究が可能となり、効率的な大学経営や授業料に頼らない多様な収入源を確保できるようになるとする。

EDUCAUSE副会長のグラジェク氏は「会員大学の44%がDXに取り組み、27%がDX戦略の策定中」などと話した
EDUCAUSE副会長のグラジェク氏は「会員大学の44%がDXに取り組み、27%がDX戦略の策定中」などと話した
出所:AXIES2021年度年次大会 基調講演「高等教育のデジタル変革」
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 会員の大学を対象にした調査では、コロナ前の2019年時点でDXに取り組んでいるとの回答は13%だったのに対し、2021年には44%と3倍以上になった。「DX戦略を策定中」という回答を合わせると70%以上の大学がDXに取り組み始めているという。一方で、大学の学部や機関などを横断したDX導入の調整や、ICT関連コスト、DXに対する理解の不足や賛同が得られにくいことなどが障壁になっているという。

大学のDXを進めるためには6つの段階を踏み、現状の分析や何のためのDXなのか、目的を定めて実施していくことが重要という
大学のDXを進めるためには6つの段階を踏み、現状の分析や何のためのDXなのか、目的を定めて実施していくことが重要という
出所:AXIES2021年度年次大会 基調講演「高等教育のデジタル変革」
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 そのため大学のDXを進めるためには、以下のような6つの段階を踏んでDXに取り組んでいく必要があると話した。
Step1 目的(purpose):何のためにDXに取り組むのか
Step2 状況(context):現在はどのような状況にあるのか
Step3 影響(impact):変革により、どのような価値が得られるかの予想
Step4 成果(outcomes):数年内にどのような成果が得られるか
Step5 算出(outputs):どのようなことを導入し、何を変えていくのか
Step6 投入(inputs):人的資源などどのようなリソースを投入するのか

 グラジェク氏は、EDUCAUSEでは大学のICT活用やDXに関して毎年「ホライゾン・レポート」を発行しているので、どこから取り組んでいけばよいのか分からない場合は参考にしてもらうとよいだろうなどと話した。

大学間連携でセキュリティ人材を育成

 2つめの基調講演では、東北大学 情報シナジー機構 特任教授の曽根秀昭氏が「セキュリティ人材の育成と大学間の連携」というテーマで講演した。社会生活、産業、行政の全てにおいて、情報セキュリティの必要性は高まる一方で、人材育成は急務となっている。セキュリティについて正しく理解し、実社会で生かせる実践力を備えた技術者や経営者など、産業界が求める人材を増やすことが求められている。

連携する5大学が中心となり、セキュリティ人材の育成に取り組むSecCapプロジェクトを進め、現在は学部生から社会人までを対象にコースを開講している
連携する5大学が中心となり、セキュリティ人材の育成に取り組むSecCapプロジェクトを進め、現在は学部生から社会人までを対象にコースを開講している
出所:AXIES2021年度年次大会 基調講演「セキュリティ人材の育成と大学間の連携」
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 情報セキュリティ大学院大学、奈良先端科学技術大学院大学、北陸先端科学技術大学院大学、東北大学、慶應義塾大学が中心になり、2013年から情報資産と情報流通のセキュリティ対策を、技術面・管理面で牽引するリーダー育成を目指す「enPiT-Security」(愛称SecCap)プロジェクトを進めている。

 学部生(3、4年生)を対象にした「Basic SecCap」、大学院生向けの「SecCap」、社会人向けの「ProSec」というコースがあり、各連携大学で受講できる。

現在SecCapの連携校は14大学に増え、30大学でコースを受講できる。連携企業も51社に達している
現在SecCapの連携校は14大学に増え、30大学でコースを受講できる。連携企業も51社に達している
出所:AXIES2021年度年次大会 基調講演「セキュリティ人材の育成と大学間の連携」
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 新型コロナウイルスの影響で、大学では対面授業が制約されるようになったが、SecCapは演習などもクラウド環境で実施していたものが多く、一部の対面での演習など以外はスムーズに開講できているという。