教育分野でのICT(情報通信技術)の活用が進むに従って、教材の著作権に関する問題が教育機関の大きなリスクとなりつつある。教材作成やeラーニングの活用などで、そうと意識しないまま著作権を侵害するケースが増えているからだ。煩雑な著作権処理が障壁となって、eラーニングの活用が進まないといった問題も生じている。

 社会全体でネットの活用が進んだ結果、著作権の問題は、ビジネスや生活のさまざまな場面で身近なものになっている。著作権についての正しい知識を持つことは、教職員や一般の学生にとって、これまで以上に重要さを増している。また、文化審議会著作権分科会では、教育現場の状況を踏まえて、著作権法の見直しについての議論が始まっている。教育現場の著作権の課題とその解決策を探る二つのセミナーを振り返りながら、著作権侵害リスクに対する取り組みの現状を紹介する。

 大学の教育現場では、従来型の対面授業にeラーニングを組み合わせたり、LMS(学習管理システム)を利用して授業の関連情報をネット経由で提供したりする取り組みが広がっている。講義の様子を動画で撮影して、eラーニングやLMSで提供する教育機関も増えている。こうした活用が進む一方で、著作権に関わるトラブルも増えている。著作者の了解がないまま、eラーニングや動画教材などに著作物を使い、著作権侵害となるケースだ。

 ICT活用教育で著作権侵害が増えている背景には、著作権法第35条の存在がある。第35条では、教員や学生・生徒が授業で利用する場合に、他人の著作物を許可なく「複製」して利用できる例外措置を認めている。このため、新聞や書籍などの一部をコピーして、教室での授業に利用できる。一方、eラーニングやLMSでは一般に、著作物を「公衆送信」することになるので、著作権法第23条が規定する「公衆送信権」を侵害しないためには、著作権者の了解が必要となる。第35条が規定する教育現場の例外的な取扱いがあることで、多くの教職員が意識せずに他人の著作物を授業で使っている。この延長で、教室での授業で利用している教材をeラーニングやLMSでも利用すると、著作権を侵害してしまうわけだ。

 大阪での教育イベント「関西教育ICT展」で2016年8月5日に開催されたセミナー「教育・研究現場の『著作権』リスクに備える ~ ICT利活用教育の落とし穴とその対処法 ~」では、長崎大学 学術情報部長の上野恒信氏と、山口大学 国際総合科学部 教授の木村友久氏が、それぞれの大学の著作権に関する取り組みを紹介した。

 長崎大学 学術情報部は、同大学の附属図書館やICT基盤センター、核兵器廃絶研究センターなどを所管業務としている部署だ。また、長崎大学では、ICT基盤センターのeラーニングシステムを使って、2015年度には2000コース以上のeラーニングを提供している。同大学では、すべての学生がノートパソコンを所有する「パソコンの必携化」を実現しているため、学生は自宅からでも、eラーニングを利用できる。2015年度にeラーニングを利用した学生の割合は87.4%で、同年度の学生のログイン回数は86万9183回、ログイン時間は27万8821回に及んでいるという。

 長崎大学では、ICT基盤センター eラーニングコンテンツ開発支援室が教職員を対象に、eラーニングの導入支援やコンサルティングを実施している。また、著作権に関する関心と知識を高めることを目的に、著作権に関する教職員向けのセミナーやeラーニングなどの取り組みも進めている。2016年度中には、著作権処理相談窓口を新たに設置して、eラーニングコンテンツの著作権処理の支援に取り組むという。

長崎大学でのeラーニングや著作権研修の取り組みを紹介した学術情報部長の上野恒信氏
長崎大学のeラーニングの利用状況。2015年度は、2000コース以上のeラーニングを提供している
教職員を対象に長崎大学が提供している著作権入門のeラーニング