濵野:一番予想と違ったのは、モバイルラーニングの部分ですね。私達は、「内定者は真面目とはいえ、会社から与えられた教材をきちんとやる人は少ないんじゃないか」と考えていました。でもふたを開けてみたら、180ものコンテンツをあっという間に終わらせてしまうんです。

 入社を前にした内定者は、不安が大きいんですね。だから、どんどん前に進んじゃう。そこで昇格試験という“関所”を設けることで、じっくりと学習に取り組んでもらうようにしました。

昇格試験の画面イメージ
選択肢から正しいと思う答えを選ぶ

山内:それは面白いですね。反転学習については「よほど学習動機が強くなければ、事前学習にきちんと取り組まないのでは」という点がよく指摘されますが、モバイルナレッジの場合は全然違ったわけですね。

 確かに内定者にとってみれば、入社というスタートは良い状態で始めたいという思いが強いでしょう。だから、入社前の学習も一生懸命取り組むんですね。成績が企業に見られているというのも、モチベーションの維持につながりそうですね。

濵野:ほかに意外だったのは、学習者同士が交流する目的で用意した「ニュースフィード」機能がそれほど盛り上がらなかったことです。「誰々さんが昇格試験に受かってランクアップした」とかいう情報を表示するんですけど、他の学習者からコメントがたくさん付いたりするんだろうなと思っていました。でも実際は、そんなことはありませんでした。

 考えてみれば分かるんですけど、今の学生にとってはLINEとかFacebookとかほかのツールが色々あるんですね。だからあえてモバイルナレッジを交流に使う必要はないわけです。

山内:モバイルナレッジ内では学習者同士は基本的に競争的な関係ですよね。だから、協調的な活動が起こりにくいといったこともあるのではないでしょうか。

濵野:それが、協調は色んな形で行われるんです。採用企業の多くが内定者に対して「みんながモバイルナレッジ上で社長になって入社しよう」と呼びかけているのですが、それを皆で達成しようという意識が働くのか、途中で行き詰まっている学習者を助けるといった活動が見られます。

山内 祐平
東京大学大学院情報学環 教授
大阪大学助手、茨城大学助教授を経て、2001年に東京大学大学院情報学環准教授。2014年11月より現職。研究テーマは「学習環境のデザイン」。情報から知恵を生み出す学習環境について、実践的なプロジェクトを行いながら研究を進めている。著書に「デジタル教材の教育学」(編著、東京大学出版会)、「学びの空間が大学を変える」(共著、ボイックス)、「デジタル社会のリテラシー」(岩波書店)など。