学び続けているかが一目瞭然、オンライン学習の利用が増加へ

 ブロックチェーンの教育利用は少し先になるとはいえ、いざ利用されるようになるとブロックチェーンはオンライン学習との相性が良い。ブロックチェーンによって生涯の学習履歴が追跡できるようになるということは、それは若年層に限ったことではなく、社会人になった後も履歴が残せるということである。つまり、学び続けているかどうかが一目瞭然になるということだ。

 2006年に開設されたオンライン学習サイトの「Khan Academy(カーンアカデミー)」をはじめ、現在ではネットを介して質の良い学びを得ることができる。「UDACITY(ユーダシティ)」「Cousera(コーセラ)」「edX(エデックス)」などのオンライン学習サイトや、MOOC(Massive Open Online Course)と呼ばれる大学が提供するオンライン講座もある。リクルートマーケティングパートナーズもオンライン学習アプリである「スタディサプリ」を提供しており、海外ではリクルートが2015年7月に買収したQuipper(クイッパー)が手掛けるオンライン学習プラットフォーム「Quipper School」を展開している。

 つまり、国・地域、学齢に関係なく、学びたいという意志と能力があれば誰でも学べる環境が出来上がっているのだ。オンライン学習サイトのedXは、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が出資して開設したもので、最初の講座は電子回路に関するものだった。190カ国・地域から160万人が登録し、2万人が修了。そのうち、310人が満点の成績を修めた。

 満点を取得した一人に、モンゴルに住む15歳の生徒がいた。その生徒は、学校の先生に講座を薦められて受講。その結果、満点を取り、MITの教授に米国に招かれ、そのままMITに入学した。ネットを通じた学びによって、これまで「壁」と考えられていたことが乗り越えやすい環境になっている。そして、筆者含め社会人も学び続ける人とそうではない人との差が歴然と表れるようになってくる。前述のマクゴニガル氏曰く、今CEOの職を得ている人でも、週5~10時間のオンライン学習をしないとその職を維持し続けることは難しいという。

 さらに興味深いことに、米国ではコミュニティカレッジの修了証と、民間が発行するプログラム修了証のどちらが就職に有利かという議論が始まっている。UDACITYは、2011年1月のサービス開始から累計で約400万人が受講している。米Googleや米Facebook、米AT&Tなど著名なIT企業と連携して講座を設計しているところが受講者にとっては魅力のようだ。開講している講座はコンピュータサイエンス入門、Web開発など。Googleでは、非技術系社員対象のプログラミング研修として採用するなど、個人だけでなく企業研修としても人気がある。

 UDACITYは最近「Nanodegree plus」というプログラムを開設した。あるプログラムを半年以内に修了すれば職が約束されるというものだ。万が一就職できなければ、授業料の全額返金をうたっている。つまり、学ぶことと職を得ることの境界線がなくなってきているのだ。これは既存の大学の価値についての議論にも通じ、日本においても遅かれ早かれ現出するテーマだと考えている。

 米国では、27歳の米国民の84%が何らかの形で大学での学びを経験している。ただ、その内33%しか学士の学位を取得していない。また、大学中退者の失業率は、大卒者の約3倍となっている背景があり、オンライン学習を通じて、学び直しや新しい知識を習得しようとする人が増えている。大学を中退した人でも、オンライン学習を通じて知見を得、職を得ようと試みる人が多く現れてきているのだ。

 学習履歴の追跡にブロックチェーンが導入されれば、自らが直近で学んだことをそれを学びたいと思っている第三者に時間課金で教えることができるようになるかもしれない。職を得ることだけでなく、学びが稼ぐことに直結してくる。「もし今1時間、誰かに何かを教える時間があるなら、あなたは何を教えますか?」(マクゴニガル氏)。この問いに、読者はどう答えるだろうか?

学びにおける“ゆらぎ”の可視化

 ブロックチェーンが学びに波及することで、これまでの「学位」というはっきりとした学びの結果だけではなく、生きていく中で積み上げて来た、顕在化されてこなかった学びの可視化ができるようになる。それは、学びにおける“ゆらぎ”の可視化と言えるかもしれない。主体と客体が肥大化する現代社会において、その間の存在は軽視されがちだが、ブロックチェーンはそこを顕在化、可視化する手段になり得るかもしれない。

小宮山 利恵子
リクルート次世代教育研究院 院長
小宮山 利恵子 東京都生まれ。大学院修了後、株式会社ベネッセコーポレーション等を経て、「スタディサプリ」を展開する株式会社リクルートマーケティングパートナーズにて教育政策を担当。超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。