早稲田大学高等学院の教科「情報」、テクニカル面と情報倫理が狙い

写真6●早稲田大学大学院教職研究科客員教授/早稲田大学高等学院教諭の武沢護氏

 最後に講演した武沢氏は、早稲田大学高等学院の教員でありながら、週の半分は実務家教員の立場で、早稲田大学大学院教職研究科で教鞭をとっている。こうした立ち位置から、高校の現場における情報モラルの教育体制、ならびに教員に対する情報教育について事例を交えながら紹介した(写真6)。

 早稲田大学高等学院では、2003年からスタートした教科「情報」において、高校1年次に情報モラル(情報倫理)、著作権、情報化社会の光と影といった項目を教えている。武沢氏は、そもそも同校の「情報」ではテクニカルな面と同様に情報倫理を学ぶことが狙いだとし、社会的問題、科学的問題の両輪によって構成していると語った。

 現在、同校では「情報」の授業で4人1組によるグループ学習を採り入れ、4人が1つずつのテーマを持ち寄り、まとめあげた内容を共有しながら発表している。例として挙げたテーマは「著作権」「ネットいじめ」「SNS」「個人情報」と、現代社会を色濃く反映した内容となっている。「これを1学期に発表し、2学期に著作権の体系を条例を踏まえて、とくに著作権法35条から人格権といった法令的なことを学習してレポート課題を出す」と、高校生としては高度な内容のレポート作成を課している(写真7)。

写真7●早稲田大学高等学院における教科「情報」での取り組み

 ユニークなのが、レポート判定に早稲田大学グループの「Waseda-net Course N@vi」という学習支援ツールを用いている点。独自のアルゴリズムにより、いわゆる「コピペ」を自動判定するもので、コピペ率の高いレポートには警告が出るという。武沢氏によれば、これも生徒に対して著作権の意識を植え付けるための施策とのことで、「剽窃してはならないということは常に指導しているが、この判定結果は非常に抑制が効く」と語った。

 とはいえ、高校生ならではの課題もある。その一つとして、文化祭で映画の素材を勝手に用いた映像を作成し、YouTubeで公開してしまうといった例を紹介した。「今の高校生、中学生はスマホ世代。ほぼ9割がスマホを持っている。簡単にコピーできて、写真も動画も撮れて、ネットにアップできてしまう。全くダメと禁止してもイタチごっこになる。かといって放置もできず、非常にジレンマを感じる。そこが中学生・高校生の著作権教育の中で、今後の大きな課題だ」。

 武沢氏は、「著作権に対する教員の意識が非常に低いことも(問題を引き起こす)要因になっている。教職大学院でさえ、著作権や個人情報、情報倫理のようなシラバス(学習計画)がほとんどない」と話す。こうした状況を打開するために、早稲田大学大学院教職研究科では1年目のガイダンス科目として情報リテラシーを必須にした。また、毎年の免許更新講習においても著作権に関する講義をしている。

 「しかし、これらは部分的なものに過ぎない。今後の教員養成課程のカリキュラムの中に、著作権や個人情報に関する問題点をきちんと位置づけることが重要になる。さらに今後の教育現場からの課題としては、電子書籍やデジタル教材の問題が出てくる。著作権という1つの括りではなく、段階的にフェアユース、そしてクリエイティブコモンズライセンス、パブリックドメインという概念を著作権の中から広げながら、弾力的に使っていくような形が教育の質の向上に結びつくのではないか」と語った。

 講演後には、中野編集長の質問に答える形で質疑応答が行われた。「著作権に関する知識やノウハウをどのように身に着けるべきか」という質問に対しては、3人の講師がそろって「教員・生徒に対する地道な啓蒙」を挙げた。

 また「ICT利活用を進めていく中で、サービスや教材に対する要望はどんなものがあるか」といった質問には「各教材会社による権利処理をクリアした素材の提供」(福田氏)、「権利処理も含めた、学校現場の教員が安心して使える教材の豊富な提供」(武沢氏)と答えた一方、「大学で非常に狭くて深い学問を扱うことを考えたとき、35条1項に則って運用すると授業などができなくなる。著作権法35条1項の解釈に対する本格的な議論が必要」(木村氏)との提言もなされた。