桜美林大学は2019年3月1日、筋肉の活動や心拍数などの身体データを測定しながら演奏するホルンコンクールを東京都町田市で開催した。科学的なアプローチにより、演奏者の身体的・心理的状態とパフォーマンスとの関係を検討することを目指している。

コンクールは東京都町田市の和光大学ポプリホール鶴川で開催。複数のカメラで演奏風景を撮影した

 コンクールに参加したのは、大学生や大学の卒業生など12人。各種の計測装置を体や楽器に装着した状態で演奏した。計測したデータは「唇まわり、腕、肩、足の筋肉の動き」「心拍」「マウスピースにかかる力」「楽器の音」「口腔(こうくう)内の乾燥度」である。参加者は椅子に座った状態で、5曲の課題曲を演奏した。

参加者は体や楽器に計測装置を装着して演奏した。写真は3位になった東京芸術大学音楽学部別科器楽専修1年の浜村玲名さん
ホルンはマウスピースに押し付けた唇を振動させて音を出す。コンクールでは、マウスピースにかかる力や顔の筋肉の動きなどを測定した
筋肉の動きは顔や腕などにセンサーを付けて計測した。マウスピースにかかる力は楽器とマウスピースの間に測定装置を装着した
マウスピースにかかる力を測定する装置。この研究のために開発した

 参加者の演奏後、研究の責任者を務める桜美林大学芸術文化学群の平野剛助教がデータ計測の方法と目的などを解説する公開実験を開催した。

公開実験について解説する桜美林大学芸術文化学群の平野剛助教

 平野助教は1980年代ごろに欧米を中心に演奏時の「緊張・あがり」の研究が始まったと紹介。先行研究の結果から、「演奏家がストレス源と感じている一番の要因は緊張・あがりである」「声楽家と比べて、器楽奏者のほうが緊張・あがりに悩む人の割合が高い」「音楽全体において自分の果たす責任が大きいほど、緊張・あがりが生じやすい」と説明した。

 平野助教によると、スポーツ分野と比べて、音楽分野では体や心の状態とパフォーマンスとの関係についての研究が進んでおらず、今回のようにデータを測定しながら開催するホルンのコンクールは世界初だという。科学的にデータを取得して研究を進めることで、「演奏家が緊張を感じながらも本番で十分に実力を発揮するための示唆を得ることが期待できる」(平野助教)とした。

 会場ではホルン奏者の溝根伸吾氏が計測装置を装着して演奏し、リアルタイムにデータが取得できる様子を披露した。

公開実験で演奏した仙台フィルハーモニー管弦楽団ホルン奏者の溝根伸吾氏
測定したデータをリアルタイムにスクリーンに表示した。一番上の白いグラフは、マウスピースにかかる力。振れの大きい緑のグラフは唇の筋肉の活動

 出演者は本番に先立って別の日に、同様にデータを取得しながら課題曲を演奏する「リハーサル」を実施した。今後、心理状態が異なるリハーサルと本番のデータを比較するなどしながら半年から1年をかけて分析し、学術論文や講演会などで結果を発表する。また、取得したデータの一部は審査員の評価とともに、コンクールから1カ月以内に出演者にフィードバックするという。

コンクールで1位になった桐朋学園音楽大学音楽研究科修了の葛西亮さん。「自分が演奏しているときの状況を知りたいと思って参加した。データを今後に生かしたい」と話した
コンクールの審査委員と参加者、平野氏で記念撮影。2位は該当者なしで、3位は浜村さんと武蔵野音楽大学音楽学部卒業の戸田大貴さん